【映画日記】『ノー・アザー・ランド』『秋が来るとき』『今日の空が一番好き,とまだ言えない僕は』
2025年5月15日(火)
吉祥寺アップリンク 『ノー・アザー・ランド 故郷は他にない』
なんとか映画館で観ることができた。パレスチナ人バーセルとイスラエル人のジャーナリストでバーセルの下でヨルダン川西岸地区の村マサーフェル・ヤッタの状況を告発するユヴァルらが自ら被写体となりつつ監督も務めるドキュメンタリー映画。ちょうど2023年10月のガザをめぐる状況の直前までが本編の撮影時期。
観てからすっかり時間が経ってしまったので,詳細は語れないが,ともかく考えさせられることばかりの作品。イスラエルによって次々とパレスチナ人の民家が破壊されていくこの村は,乾燥地域で,それでも厳しい自然環境のなかで必死に生きている人々の村。なぜわざわざこんな場所を政治的にも厳しい環境に置いていくのか。イスラエルの言い分からすると,ここはイスラエルの軍事施設が立地するから,あなた方は出ていってくれということ。もし本当にそこに軍事施設ができたとしたら,そこで行われる軍事演習はパレスチナ人を虐殺するための訓練なのだろうか。幾重にも恐ろしい。これは21世紀を生きる人間ができることなのか。
しかし,この作品を観ていて,なぜか私は日本の状態を想起した。日本では最近能登半島で地震が起こった。あまりにも遅い復興で,「棄民政策」とも呼ばれた。この間も日本では行政サービスの縮小が進み,地理的には市町村合併により,また介護医療の報酬引き下げなどに起因して高齢者ばかりの過疎地が蔑ろにされてきた。昨今の米不足も,地方での零細農家が米作を続けられないような状況へと思い込み,生きたいのであれば別の場所にどうしろといっているようだ。まさにパレスチナで起こっていることも地続きで,人々を管理しやすいようにひとところに集め,誰も住まなくなった辺鄙な土地には軍事施設や原子力発電所などを何の気兼ねもなく立地させることができる。コンパクトシティなどとさわりのよい言葉ではあるが,人々が自由に選択できる居住権や移動の権利などは次々とはく奪されていくのだろうか。
https://transformer.co.jp/m/nootherland/
2025年6月1日(日)
立川キノシネマ 『秋が来るとき』
フランスの映画監督,フランソワ・オゾンの監督作品。デビュー作の『焼け石に水』から好んで観ているが(途中イマイチの作品もあり,全ては観ていない),本作は観てよかったと思える作品だった。オゾン監督作品のミューズともいえるリュディヴィ−ヌ・サニエも加齢をそのままに出演していて,なかなかの存在感。ネタバレをしてしまってはつまらない作品だが,もう上映はしていないと思うので,ネタバレします。オゾン作品はどちらかというと本質的,あるいは抽象的な社会批判を含む作品を作ってきたように思うが,本作は具体的な社会的問題を扱っている。主人公はリュディヴィーヌ演じる女性の母親役なのだが,売春婦をしていた過去があり,それが故に娘から嫌われている。そのことを知らない孫は祖母になついているのだが,娘にとってはそれも気に入らない。主人公の女性には同じ町に住む親友がいて,彼女も売春婦仲間である。彼女が亡くなった時に,葬儀に集まった大勢のかつての仕事仲間たちのシーンが圧巻である。売春婦が誇れた職業ではないのは承知の上で,主人公は女手一つで娘を育てるためにやむを得ずに職業選択をし,それでもそこで仲間ができ,引退してからは社会のなかでひっそりと暮らし,娘からは疎んじられ,最愛の孫にも頻繁には会えない,そんな一人の高齢女性の生きざまを描いた作品。
https://longride.jp/lineup/akikuru/
2025年6月24日(火)
立川キノシネマ 『今日の空が一番好き,とまだ言えない僕は』
とても評価の高い,河合優実さんだが,24歳でありながら,メイクをしない,笑わない役どころの出演が多いように思う。とはいえ,私が彼女の演技をしっかり見たのは『PLAN75』だけであり,『佐々木,イン,マイマイン』や『線は,僕を描く』に出演していたことは今から思い返しても印象は残っていない。いずれにせよ,メイクをしない,笑わない映画俳優という存在は,かつての宮﨑あおいのようで,どうにも気になってしまう。そして,恐らく言われていることではあると思うが,山口百恵に似た雰囲気を持つ河合優実さんの作品はできるだけ観ておきたいと思うと同時に,本作はメイクもしているし,キレイ目の女子大生を演じているというのも貴重かもしれないと思い,見逃さないようにした次第。
主演の萩原利久さんは『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』の印象が強い,なかなか両義的な雰囲気を持った俳優だと思う。しかし,前半で圧倒的に存在感を発揮していたのは,萩原さん演じる主人公のバイト友だちを演じる伊東 蒼さんは素晴らしい演技だった。特に出演最後の長回しのシーンは,本当に素晴らしく,映画としてはそこまで長いセリフにすると冗長すぎてマイナスの効果があるようにも思うが,それが故にリアリティがあるように感じた。そして,ストーリーの展開は単なるラブ・ストーリーではない展開になり,後半はノーメイクの優実さんが登場し,そこからの演技が素晴らしかった。とにかく,今後の活躍が楽しみな二人の俳優の演技がみられた非常に貴重な作品だと思う。
https://kyosora-movie.jp/
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