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文明論之概略

福沢諭吉著,松沢弘陽校注 1995. 『文明論之概略』岩波書店,391p.,760円.

あの福沢諭吉の著書,あなたは読んだことがあるだろうか。おそらく(というか,私がだが),国語か社会科の教科書で『学問のすすめ』の一節を読んだくらいではないだろうか。今,法政大学の「地理学」の講義で使っている教科書,西川長夫『地球時代の民族=文化理論』のなかで,本書が大々的に取り上げられている。ということで,先日古書店で,この岩波文庫版を手に入れたので読んでみることにした。

本書の初版は明治8(1875)年に,和紙木版で6巻本として発行された。もちろん,この岩波文庫版はその6巻を全て1冊に含んでいるが,当時は活字ではなく,木版画だ。その2年後に洋紙活版刷一冊本が刊行されたというから,まさに日本が近代化する過程に生まれた出版物であり,著書であるといえる。
日本の近代化とは,鎖国の江戸時代の終焉であり,明治維新があり,廃藩置県など日本の制度がまるっきり入れ替わった時期であり,それをわたしたちは「文明開化」と呼んでいる。しかし,「文明」ということばは日本語にはなかったのだ。もちろん,文化という言葉とともに,過去に年号として文明の語は使われたことがあるが,わたしたちの時代の昭和や平成が日常用語として用いられることがないように,文明という語は単に中国の古典から借りてきた言葉にすぎない。意味など伴わない象徴的な言葉であった。
すなわち,「文明」という語は文明開化という現象のなかでヨーロッパから輸入された言葉であると同時に,ヨーロッパからさまざまな政治制度や経済体系,生活様式を輸入することを,その言葉を用いて文明開化と呼んだわけである。すなわち,文明とはこの時代の最大のキーワードであった。だから,その言葉を普及させるために,当時最もすぐれた知識人であった福沢諭吉がその言葉を普及させるために本書を書かなくてはならなかったのだ。

日本の政治制度や経済体系に関して,本書ではJ.S.ミルの『代議政治論』や『自由論』,『経済学原理』が多用されているが,その他にバックルの『英国文明史』とギゾーの『ヨーロッパ文明史』からヨーロッパ文明について学んでいる。当時からもちろん,ヨーロッパの著作をそのまま翻訳するということはあったが,部分的に翻訳したものを引用文だと明示することなく,自分の文章であるかのように用いることが多くあったようである。本書もそんな感じで,上の2著からの引用分は数多い。もちろん,本文だけ読んだだけではそれには気づかないだろうが,ご丁寧にこの岩波文庫版ではいちいち注釈を入れている。
すなわち,この本はヨーロッパの文明化の過程を概観し,日本に明治維新以前にあった文明の歴史を辿り,両者を比較することで,日本が今後ありうべき姿を探求するという目的がある。もちろん,その具体的なところは『学問のすすめ』のような他の著作がありますが,その前提となるのが本書。

いやあ,それにしても難しかった。木版画版の1ページ分の写真が掲載されていますが,カタカナによるおくり仮名を平仮名に直し,漢字にはとても丁寧に読み仮名がふってありますが,基本的には現代語訳にはなっていない。特に,日本の文明史の箇所は英語を読むより大変だ。でも,現代と違って,こうした歴史を記述するのは大変だと思う。
しかし,全体的な論調は,日本は今のままでは駄目で,文明化=欧化であり,ヨーロッパに近づくことこそが日本国の独立である,という主張はかなり極端のように思えるが,そのくらい強い主張だからこそ重要な論として受け入れられたのだろうか(あ,といっても,本書は他の福沢の著書と比べて当時はあまり読まれなかったらしい)。

ともかく,やはりこういう読書は新鮮です。

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