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消しゴム

アラン・ロブ=グリエ著,中村真一郎訳 1959. 『消しゴム』河出書房新社,300p.,320円.

ロブ=グリエについては,以前『嫉妬』を紹介するときに書いたが,1922年生まれのフランスの作家。本作は1953年の作品で彼の処女作である。私はロラン・バルトによる批評文でロブ=グリエについて知ったわけだが,訳者あとがきによると,彼の存在を世に広く知らしめたのもバルトによる功績らしい。
しかし,ご覧の通り,日本語訳が1959年に出たくらいだから,そう簡単に手に入るものではない。『嫉妬』も古書店でそれなりのいい値で購入した記憶がある。しかし,先日早稲田の古書店めぐりをしている時に,本書ともう一冊ロブ=グリエ作品の『覗く人』が1800円と1000円で売っていたのだ。その他にもその店ではどうしても買いたい本があったので,どちらか1冊にしようと思っていたが,もう当分現物にお眼にかかれないと思い,両方購入した。

この頃の何人かの作家の作品は「新しい小説」や「反小説」と呼ばれたらし。どうも,ポストモダン小説のはしりといえるかもしれない。私が好きなミラン・クンデラやポール・オースターと通じるものがある。訳者の解説によれば,それでも処女作である本書はほかの作品と比べて分かりやすい設定やストーリーがあるという。クンデラの処女作『冗談』も確かにそうだった。

まず語り手として登場するのはガリナッティ。ある組織に所属して,ある人物を殺すつもりが未遂に終わる。
続いて,その殺人の標的となるデュポン。ガリナッティの銃弾はかすり傷で済んだが,ジュアール医師の協力を得て,自分は死んだものとする。
ここまで進んでから,「第一章」が始まり,そこからはワラスという秘密警察官が語り手となる。もちろん,彼が追うのはこの殺人事件。といっても地元の警察署長ローランは自殺とみている。
他にも数人,重要な人物が登場するが,大体はそんな感じの人物と物語。基本的にこの事件を理解するのに必要な詳細な情報は読者に提供されない。時にはようやく理解しかけた事実を覆すような記述もある。しかし,かといって疑いのない真実があって,それをサスペンスのような技法で読者を蜘蛛にまいているわけではない。あくまでも,現実というものが誰にとっても確かな同一のものではないということを主張しているのだ。
そもそも,この「消しゴム」というタイトルがなめている。ストーリーとは全く関係ないのだ。捜査をしているなかで,ワラスが文房具屋を訪れてわけもなく消しゴムを購入しようとし,製図用の消しゴムがなかったにもかかわらず,定員の薦めで彼には何の役にも立たない柔らかい消しゴムを購入してしまうという場面があるだけ。ただ,彼が訪ねる1つの文房具店の店主がデュポンの別れた妻である,というところはストーリーに関わってくるが,消しゴムは全く関係ない。そもそも,なぜワラスが製図用の消しゴムをほしがっていたのか。

という感じの,意味不明さを楽しむ作品ではありますが,それなりの結末もある。

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