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地理学を学ぶ

竹内啓一・正井泰夫編 1986. 『地理学を学ぶ』古今書院,378p.,3200円.

本書は,編者の2人が16人の地理学者にインタビューをした記録である。
日本の大学に地理学の講座が設置されたのは,京都大学が明治40(1907)年,東京大学が明治44(1911)年。本書の刊行年にはもちろん,当時の地理学者はこの世にいない。著者たちは日本の地理学を立ち上げた人たちのことを「第一世代」と呼び,かれらから学んで後の地理学を盛り立てた人たちを「第二世代」と呼ぶ。もちろん,この世代の人たちの多くも亡くなっているが,幸いこの頃に存命だった16人にインタビューをしている。
私の記憶では,同様の試みが英語圏でも活躍していたフランスの地理学者アン・バッティマーによってなされ,彼女とそれなりに親しかった地理学史研究者である竹内啓一氏がその研究の一環として行ったものである。インタビューを受けた人たちは既にこの頃80歳以上の高齢。もちろん,従来の学史研究であれば,かれらが残した研究業績を丹念に読み解くことが重要であるわけだが,この頃英語圏や仏語圏で登場した「コンテクスチュアル・アプローチ」をも念頭において,文献研究では得られない情報を得ることが目的であるように思われる。大学や学会といった,学問を支える社会制度的なもの,そして何よりもそれに先立つ人的関係。

といっても,このインタビューはある意味非常に形式的である。出身地や生い立ち,いつ頃地理学を志したのか,就職のこと,研究のこと。でも,やっぱり老人の話はある意味面白い。そして,大学への就職や,大学での講義など,いまほど格式ばっていないところがよく分かり,意外にも今日よりも自由な研究環境だったようにも思う。そして,そのアグレッシヴな人生。とてもかないませんな。
地政学の研究もしている竹内啓一さんが聞き手の一人だったわけですが,本人は期待したほど戦後タブー視されてしまった日本の地政学については得るものがなかったとのこと。まあ,やはり本人たちの口からそうしたことを聞き出すのは容易ではないし,そこにこだわりすぎると他のことが聞き出せなくなる危険性もある,ということなのでしょうか。
でも,当時のことをほとんど知る由もない私からすれば,いかに日本では地理学が弱小学問であるといえども,戦争への関与がけっこう垣間見ることができました。とにかく,読み物としても面白い。

それにしても,編者の一人である竹内啓一氏は2年前になくなってしまった。久武哲也氏も今年7月に,そして本書にも数枚の写真を提供している石井 實氏がつい先日,他界してしまった。まだ地理学に足を突っ込んで十数年だが,こうして少しでも関わりのあった方々が亡くなると寂しいですね。

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