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The language of landscape

Spirn, A. W. 1998. The language of landscape.Yale University Press: New Haven, 326p.

久し振りの読書日記です。
先日神保町にいったらすっかり様変わりしてしまった北沢書店で10年ほど前に購入したと思われる本。まだ10年前は,買っておけばそのうち読むだろうと思ってけっこう洋書を買っていた。神保町の北沢書店は品揃えがなかなか渋く,地理学のコーナーはないんだけど,たまに地理学者の本も置いてあったので,前はよくチェックしていたのだ。
著者について,あまり書かれていないのだが,1947年生まれの女性であることは分かる。著者の専攻はlandscape archtectureであり,日本語で造園という。購入する際に目次を読んだときには,単なる学術書ではなく,実際の地域計画にも関わるようなものでありながら,自ら撮影した写真を掲載するなど,芸術実践的な側面もあると思って,若い著者かと思いきや,読み進めるうちにけっこう考え方が古いことに気づく。

コスグローヴなどの最近の地理学者の批判的な景観研究も参照しているんだけど,結局はトゥアンのような,そして同じ建築畑ではノルベルク=シュルツのような博学的ヒューマニズムが根底にあるように思われる。先人の知恵を学び活かすことですぐれた景観設計をしていくことで明るい未来がやってくる,というような,景観は社会のなかで重要な役割を果たす,的な結論だったように思います。
本書の文章はとても読みやすいところとそうでないところが明瞭なものでした。まあ,それだけ多岐に及ぶ内容でしたから,細かくみると面白いところもありました。一応,「景観の言語」というタイトルをつけているくらいですから,言語の意味体系と同じように,景観を捉えることができる,というのが本書の主張です。同じような発想は地理学のなかにも構造主義的記号論を参照しながら「テクストとしての景観」という議論がありましたが,それをさほど参照していない著者は,より素朴に景観要素を分解してそれぞれの関係性を考察するところなどはなかなか面白い。しかも,人間が作り出した文化景観のみならず,自然景観までをも,気候学や地質学を参照しながら考察しているところはあまりにも素朴で新鮮です。ある意味環境決定論的な議論でもありますが。
そんな考察は,先ほど「博学的」という表現をしたように,世界中から事例が参照されます。しかも,日本の事例がとても多い。表紙に使われている写真が京都の西芳寺(苔寺)になっているくらいですから。そして,当然のことのようにそこで参照される日本の景観は「わび」「さび」の世界です。しかも,自然決定論的に景観の説明がなされ,そこに日本精神が宿る,というような論調。一応,後の考察では日本では新旧が一体となり,特徴的な都市景観も存在するっていってるけど,結局は伊勢神宮とか,そんなものの建築景観が愛でられるというわけです。

かなり批判的に紹介してきましたが,本書はとても珍しい構成をしています。注の後に,「資料」というのがかなりのページを割いています。実際に現地調査に行った場所と時期,地図や資料,博物館の所在について,出版物については文献表として。著者が「景観作者」と呼ぶ人には芸術家や建築家,庭師などが含まれますが,その人たちに対するインタビューのこととか,出版されたものからされないものまでの資料について。そんな感じで,本書が出来上がるまでの過程が少しでも垣間見れるような資料がついているのは,とても親切だと思います。

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