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盲者の記憶

ジャック・デリダ著,鵜飼 哲訳 1998. 『盲者の記憶――自画像およびその他の廃墟』みすず書房,189p.,3600円.

デリダの本は何冊目だろうか。
フッサール『幾何学の起源』(デリダによる序説,せりか書房)
『声と現象――フッサール現象学における記号の問題への序論』(理想社)
『根源の彼方に――グラマトロジーについて』(上下巻,現代思潮社)
『エクリチュールと差異』(上下巻,法政大学出版局)
『ポジシオン』(青土社)
『尖筆とエクリチュール――ニーチェ・女・真理』(朝日出版社)
『シボレート――パウル・ツェランのために』(岩波書店)
『コーラ――プラトンの場』(未來社)
あまり読んでないなあ,と思いながらビックリするのは,全て出版社が違います。この手の人の翻訳本って,例えば,バルトならみすず書房とか,フーコーなら新潮社とか,セールなら法政大学出版局とか,ブルデューなら藤原書店とかけっこう固定しているんだけど,デリダはこれだけばらけていたんですね。
さて,余談はよして,本書はルーヴル美術館で開催された展示会のカタログです。さすがルーヴルといべきか,この展覧会は「偏見/決意」と題された一連の企画展で,直接芸術には関係ない人が,ルーヴルの所蔵作品から選び出してあるテーマのもとに展示をするというもの。その第1回がデリダだったようです。デリダが選んだのは表題にあるように,盲者が描かれているもの,もしくは自画像。特に素描画が多く選ばれていて,本書にも71の作品が掲載されています。なぜ盲者と自画像なのか。そのことは本書の前半部に説明されていますが,明確には理解できません。まあ,デリダの場合には常識では結びつかないようなものを語源や感覚的なもので結びつけるってのが普通のなので,その理由を追求しては面白くありません。その,結びつきそうにないものを結び付けて考えた時に新しい発想が生まれればよいのです。まあ,自画像を描くには視覚を必要とせず,記憶さえあればよいのだ,そんなことも書かれていたような気がします。それにしても,盲者が描かれた絵画作品(その多くが17世紀から19世紀までのものですが)がけっこう多いことに驚きます。単に盲者であるだけでなく,目隠しをして手探りで歩く人なども含めて。
デリダには少ないながら,『絵画における真理』などの芸術論がある。芸術論の中心は絵画であり,絵画は視覚芸術の代表的なものだが,それを論じるということは人間の視覚について論じることでもある。という具合に,本書は視覚芸術のなかに視覚にかかわる要素を含んだ作品を論じることで,視覚芸術の根源を見据えているのかもしれない。自画像も視線の方向性という点では特異なジャンルである。自らの視線を向けて自らを描く。鏡で自分の顔を写実的に描けば自ずから描かれた顔とそれ観る人は目が合うわけだけど,自画像というものが必ずそうした視線を持っているわけではない。
まあ,そんなことは決して書かれていないのだが,私の勝手な解釈で書いてみました。そもそも,本書はやはり他のデリダ作品に比べると読みやすいとは思う。実際に前半部では図版を解説しながら,時代背景なども考慮しつつ論を進めていて読みやすい。しかし,途中からは図版を参照することもできずにどんどん読者を置いて進んでしまう。まあ,それがデリダ読書の面白いところではありますが。
そんな感じでデリダの本にしては珍しく3日で読み終えてしまった作品でした。

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コメント

ジャック・デリダって読んだことはないけど、日本でも本業とは違う(専門外の)写真や美術について評論するというのはありますよね。「ユリイカ」の特集ではそうした畑違いの人が書いているものが読めたりするので、大抵は立ち読みですが、おやっと思うこともあります。

1月29日は新宿・歌舞伎町の「つるとんたん」へ。特にライブの予定がない日にいつか行こうと思っていた、うどん屋で食事をしながら矢舟テツローさんのライブを楽しむことができました。ここでは、そこそこのアーティストが出演しており、1月のスケジュールを見ても、矢舟テツローさんの他、maru、シミズリエ、ひうらまさこ、それにFonogenicoの名前も。店はうどん屋にしてはこじゃれたレストラン風で、真剣に飲むと5千円位はかかるメニューと価格だが、うどんとビール1本にしておけば、2000円ちょっと。30分のライブ、1セットで充分でした。真剣に音楽(JAZZ)を聞いている人はあんまりいないけど、ライブが終わったときには拍手が巻き起こったし、矢舟さんのブログによれば知った顔もちらほらあったようです。
http://www.tsurutontan.co.jp/shinjuku/main_shinjuku.html

投稿: TOPS | 2008年1月30日 (水) 17時37分

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