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デリダ論

ガヤトリ・C.・スピヴァク著,田尻芳樹訳 2005. 『デリダ論――『グラマトロジーについて』英訳版序文』平凡社,251p.,1100円.

大晦日に帰省した。帰省といっても埼玉なので普通列車で2時間もかからない。実家では退屈なのでパソコンを持って行くが,それに気をとられて車中で読む本を忘れてしまった。今回は一人で帰らずに母親を日比谷まで呼び出して映画を観て,2人で帰ることになっていたので,銀座で急遽本を買う。そんなことで購入したのが本書。
といっても,本書の存在は知っていた。しかも,日本語訳が出る前からこの文章の存在はしっていたのだ。私は1997年に,当時大学院生として所属していた東京都立大学理学部地理学教室が発行している英文紀要に短い論文を載せたことがある。というのも,理学部なので人文地理学をやっていても,博士論文は英文で書かなくてはならず,それに加え,博士論文を受領してもらう条件ってのがあって,その一つに英語の論文を持っていることってのが含まれていたのだ。それはさまざまな固有名論を参照することで,地理的な名詞,すなわち地名について考察したものだ。有名な固有名論にはいくつかあるが,私がかなり参照した本にデリダの『グラマトロジーについて』(邦題は『根源の彼方に』)がある。当然,私は日本語訳を読んでいたわけだが,英文の論文に引用する場合はやはり英語訳を参照する必要がある。さすがに,フランス語を日本語に訳したものを,フランス語も分からずに日本語から英語に翻訳するのは気が引ける。それに第一デリダの難解な文章を英訳するなんて。
そこで,スピヴァクが1974年にフランス語の原著を英語に翻訳したものを購入していたのだ。スピヴァクはその後,1987年の『文化としての他者』で知られるようになるわけだが,実はこのデリダの訳書にはスピヴァクによる序文がつけられていたのだ。354ページの本文に対して,なんと80ページの序文がつけられているのだ。でも,これは驚くべきことではない。なんと,翻訳されたデリダも同じことをしているのだから。1967年の『声と現象』でデビューしたデリダは,その以前,1962年にフッサールの『幾何学の起源』をドイツ語からフランス語へと翻訳し,それに本文より長い序文をつけているからだ。この本は日本語にも翻訳されているが,むしろフッサールよりもデリダの文章を読むために翻訳されているようなものだ。320ページ中,デリダの序文は256ページに及ぶのだから。

なので,このスピヴァクによる序文の存在を知ったとき,ある意味心躍った。せっかく私の手元にあるのだからそのうち読んでやろうと。といううちに8年が経過し,日本語訳が出てしまった。でも,原著は1974年のものだから,ある意味では今頃翻訳されるのはおかしな話だが,私のように最近この文章に出会って衝撃的に翻訳してしまったのかもしれない。ちなみに,役者は1964年生まれ。
訳者解説によると,デリダの著作の英訳はこのスピヴァクによるものが初めてであり,またスピヴァクは米国でデリダ流の脱構築を広めたポール・ド・マンの下で学んだというくらいだから,このスピヴァクの序文が英語圏での本格的なデリダ論の初期のものだといえる。しかも,デリダばりの序文であるから,単なる読者に優しい分かりやすい説明文では決してなく,むしろデリダを解釈しているのだ。この『グラマトロジーについて』を中心としつつも,もちろん『声と現象』,『エクリチュールと差異』,インタビュー集である『ポジシオン』,そしてこの訳書が発行される年に原著が発表された『弔鐘』のすべてについて検討しているのだから,今読んでも全く遜色のない前期デリダ論だ。
といっても,これから脱構築を米国で盛り上げていこうという意気込みが感じられる文章は,もう「脱構築」という概念をすっかり死語にしてしまった21世紀の日本においては古臭くみえるのは否めない。といっても,私個人としては脱構築という言葉に出会い,デリダの著書を読み始めて十数年。いまだ私の思考にとってデリダの思想は,この前期に限っても十分に理解できていない未知の領域が広がっているし,単に40年前に書かれたものだからというだけの理由で引用するのは恥ずかしいと思うような人とは違う。なので,本当に十分に刺激的なないようでした。でも,やはり脱構築を批評に応用しようというような内容はちょっとあれですが,ニーチェやハイデガー,フロイトなどとの関連付けは全くその考察に古いものは感じさせません。

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