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においの歴史

アラン・コルバン著,山田登世子・鹿島 茂訳 1990. 『においの歴史――嗅覚と社会的想像力』藤原書店,390p.,5000円.

コルバンの本は4冊目。読んだ順とページ数,値段を示してみましょう。
『浜辺の誕生――海と人間の系譜学』752p.,8800円
『人喰いの村』261p.,2800円
『音の風景』460p.,7200円
まあ,『人喰いの村』は小さい版で薄いのですが,とにかくコルバンの本は分厚い。なので,まずは購入するまでに勇気がいります。藤原書店の本は装丁も素敵なのでその分割高なんです。そして,本棚の肥やしになってから,ようやく意を決して読み始めるという感じです。まあ,長距離走を走り出す感じですか。
コルバンの本には毎回驚かされるのですが,この本は本当に素晴らしいです。読み物としても面白いし,学問的にも刺激的です。原題「瘴気と黄水仙」を「におい」と平仮名表記で別の表題にしたのは,「臭い」と「匂い」,つまり臭い匂いといい香りの双方を扱っているからだ。といっても,前者の方が強いのはいうまでもない。ヨーロッパで香水が生まれたのは,白人の体臭の強さを隠すためだ,と日本人はよくいいますが,まあ正しくはあるけど精確ではない。まあ,その辺の事情を詳しく書くことはできませんが,最近映画化された『パフューム』の原作が本書をネタにしているといわれるくらいですから,あの映画を観れば本書のエッセンスがいくつか出てきます。
もちろん,本書にはこのフィクションに含まれない要素が他にも沢山。本書が私にとって魅力的なのは,なにか一つのテーマに絞って議論を集中していくようなスタイルではなく,「におい」という一つの事柄を出発点に,さまざまなテーマが発掘されて論じられていくということ。一応,舞台はヨーロッパで,しかも英国とフランを中心にそれほど範囲は広くない。そして時代的には18世紀と19世紀に限っている。しかし,においに関する資料は膨大にあるのでしょう。それらを前に,本書自体も日本語で400ページに近い内容がどのように,コルバンの頭のなかで作られていくのか。歴史小説とは違って時代順に事柄を並べていけばいいのではない。上に書いたように,いくつものテーマに沿って資料を集め,そのテーマ同士の関連がなくては話になりません。もちろん,フィクションではありませんが,ストーリー性たっぷり。
しかも,コルバンの著作が地理学者の私にも興味を持って読めるのは,彼の研究がいつも地理学的テーマに直接関連しているから。『浜辺の誕生』はまさに海浜リゾートが成立する過程の調査だから,ある種の美的風景を,そしてその土地での経験を求めて人々が地理的移動を行う。『音の風景』で中心的に扱われるのは鐘の音ですが,その音は空間的な広がりを持っている。『人喰いの村』は人類学的調査ともいえますが,もちろん地理学的なモノグラフともいえる。
それらはタイトルから地理学的テーマを予想できますが,さすがに本書『においの歴史』まで,こんなに地理学的だとは思いませんでした。音と同様ににおいも空間的な広がりを持つものですが,特に本書で話題となっているのが,都市中心部の悪臭。コルバンが目指す歴史学は「感性の歴史」といわれ,上記の作品でも視覚や聴覚がテーマになっているのが分かりますが,本書ではもっとも歴史学者が取り組んでこなかった臭覚。しかし,それを生理学や心理学の立場からのみ接近するわけではない。感性そのものというよりも,感性を規準に人々が何かを決定して,それが物質的な実行に移されたり,社会的な制度が成立したり,ということです。なので,においをめぐる言説は『浜辺の誕生』に引き続きまずは医学。医学の一般化された言説ってのはいつでも大衆に強い影響力を持っているんですよね。最近でも,水を常温で大量に飲むことは美容にいいとかいって,皆ペットボトルで飲んでいますが,一昔前には運動中でも水分を摂ることは身体に悪いとか考えられていたんですから,いい加減なものです。
そして,この時代に急展開を遂げた科学としての,ラボワジェの化学やパルトゥールの免疫学なども,においというものの正体が科学的に解明され,それが身体に及ぼす影響に対する人々の恐怖。それを除去しようという権力者の意図。差別される人種,階級。衛生思想の普及。刑務所や病院で人々の規律=訓練。それは後に学校に普及する。ブルジョアの衛生観と,行政の政策に抵抗する民衆たち。
まあ,ともかくこんなところじゃ語りつくせません。こんな面白い歴史地理学の本を読んでみたいなあ。地理学者頑張れ!

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コメント

「都市の悪臭」なんていうのは、ナルセさんには関心の高いテーマなんでしょうね。鼻が敏感な人は旅先で感じるニオイで、その場所のイメージが形成されるそう。飛行機に乗ったとたん、韓国便はキムチ臭かったり、モンゴル便は乳臭いなんて話も聞きます。僕は仕事柄「食べ物のにおい」に関心があって、それも悪臭に誓いような食品、チーズ類や熟れ鮨、納豆などの発酵食品や、くさやとかドリアンなどアンモニア臭のする食品などなど、どうしてあのような臭いものを食べたくなる人がいるのか、そのメカニズムや食の歴史といったものに興味があります。

1月31日、この日は早めに仕事が終われば、天窓グループのオムニバスCDの女性シンガーによる高田馬場BIG BOXでのフリーライブに行くつもりで、遅くなれば下北沢「ラカーニャ」で佐藤良成を聞くつもりが、急遽呼び出しを喰らってライブはなし。結局1月は22本でした。

2月1日は渋谷「DUO」、『サンシャイン デイズ』という、70年代半ばの湘南を舞台に、ミュージシャンを志す青年がオープンしたカフェに集う若者たちを描く青春ストーリーの映画に関するイベント。映画にも出ている初芝崇史のほか、劇中で歌われる70年代ナンバーをカバーしたミュージシャンが大集合、柳田久美子やQuinka, with a Yawn、湘南らしくハミングキッチンや有里知花なども参加し、山下達郎や吉田美奈子、ブレッド&バター、杏里などなどかなり現役で聞いていた懐かしいナンバーをやってくれて、楽しいライブでした。黒沢秀樹、健一兄弟を見るのもそれぞれ3回目か4回目だと思いますが、こういう仕事をやってくれるのは嬉しいものです。

投稿: TOPS | 2008年2月 4日 (月) 12時44分

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