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記憶/物語

岡 真理 2000. 『記憶/物語』岩波書店,123p.,1200円.

実はロラン・バルトの『テクストの出口』を読んでいた。しかし,思わず吉祥寺stringsに忘れてきてしまい,帰りの井の頭線でその日吉祥寺の古書店で購入した本書を読み始めた。本書は岩波書店の「思考のフロンティア」というシリーズの1冊で,上記のように薄くて安い。内容的には重いものでしたが,かなりさらっと読むことができた。
岡 真理はアラブ文学研究者だが,ポストコロニアル・フェミニズムという,現代思想の流行のテーマを扱っているため,『現代思想』などにも寄稿していて,いくつか文章を読んだことはあったが,著作を読むのは初めて。
彼女の文章は少し不思議なところがある。もちろん,テーマ的にも難解な箇所があるのに,さらっと読めるのだ。まあ,それは小冊子で書き下ろしという,このシリーズものだからこそかもしれませんが,女性的なのかもしれません(などとフェミニストに対して書くのはどうかとも思いますが)。
本書の中心にはパレスチナ問題がある。はっきりいって私は戦後60年続いているこの問題について知るようになったのは,研究を始めて少し経ってからだ。さすがに,今日だとその問題がどういうものかは知らなくても,パレスチナという言葉は誰でも知っていると思う。しかし,私が高校生の頃,その名前はどこに登場しただろうか。しかも,最近よく聞くようになってからも,なにが問題何かも基本的に知らないのに「パレスチナ問題」というものが自明のように,ニュースでイスラエルの映像が流される。でも,本書はその基本的な知識も省略せずに書いてくれる。ヨーロッパの長い歴史のなかで迫害されていたユダヤ人は,第二次世界大戦でナチス・ドイツの「ホロコースト」に遭ってしまうわけですが,そんなユダヤ人を保護するために建国されたイスラエル。もちろん,米国が主導だったわけですが,今度はもともとその地に住んでいたパレスチナ人が迫害に会うことになったわけですね。もちろん,いきなりここに国を作るから転居してくださいといわれても,そんなことはできません。それが可能になるのは強制的な暴力を除いてありえません。詳細はまだ知らないことばかりですが,想像も及ばないすごいことですよね。
本書ではこの問題そのものを扱うのではなく,そういうことが(パレスチナ問題に限らず),映画や小説などに描かれることを深く考えようとしています。誰によって語られ,それを受け取る人たちはどのように受け取るのか。なかには是枝監督の『ワンダフルライフ』なども取り上げられていて,私では思いつかない視点が新鮮だ。私はこれは日本映画なのだからという前提からそんなことは自明なこととして観てしまったが,恐らく国境などない死後の世界のはずなのに,登場人物が全て日本人であるということは実は不自然なのかもしれない,ということだ。この物語に登場する老人には戦争の記憶があるが,この全て日本人であるということと,戦争を語るナショナリスティックな物語。これが本書で問われる,この映画の問題だ。
まあ,ともかくさっと読めて刺激がある,そんな魅力的な本です。

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