« また一週間前... | トップページ | 周りに妊婦多し »

東方見聞録

マルコ・ポーロ著,愛宕松男訳注 1970. 『東方見聞録1』平凡社,358p.,2940円。

いわずと知れた歴史的作品。私がこの本を初めて意識して見たのは,確か大学生協の書籍コーナーにおいてあった,平凡社ライブラリー版だった。そのころは,そんな本を読んでみようとはまったく思わず,むしろ「あー現代日本語で読めるんだ」って感じだったが,大学で教えるようになって,大学院の頃から本格的に好きになった歴史の話をし始めて,ちょっとマルコ・ポーロの話などもしていた。『東方見聞録』も読まずにだ。
というのも,とある日,入手したPOLA化粧品のポーラ文化研究所が出している雑誌『iS』という雑誌に四方田犬彦氏の「マルコ・ポーロを讃えて」という文章が載っていて,これがひどく面白かったので,原著も読まずにそんな話を講義ではしていた。ところで,この雑誌,すでに2002年に廃刊になっているがなかなか面白い。四方田氏の文章が掲載されているのは「幻想旅行」という特集で,谷川 渥氏などが寄稿していて,他にも古書店で6冊買い求めたこともある雑誌です。ちなみに,他には多木浩二や高山 宏,富山太佳夫などの名前もある。
さて,この四方田氏の文章では,ある一冊の本が取り上げられる。日本語訳も出ているフランシス・ウッド『マルコ・ポーロは本当に中国に行ったのか』(草思社)という1冊。まあ,タイトル通り,もしあの時代にマルコ・ポーロが中国に17年滞在したという事実がなかったとして,あの本が書けたかどうかを検証するのだ。といっても,そもそも1295年までの旅の記録をその3年後から,獄中で後述し,同室の囚人に書き写させたというが,原本が失われたこの書が現代に至るまでどんな道筋を辿ったのかは想像に難くない。つまり,その後の紆余曲折で加筆・修正された可能性は大いにあるというのだ。そもそもヨーロッパではまだ印刷技術が発見されていない時代にあって,私たちが著書とみなすものと同じと考えることにちょっと無理がある。
まあ,ともかくそんな疑いの目を持って本書を読み始めたのだ。ちなみに,私が手にしたのは平凡社ライブラリー版ではなく,同じ平凡社の「東洋文庫」のなかの一冊。まだ下巻は入手していませんが,上巻を先に読みました。同じ「東洋文庫」には同じ時代の英国人ジョン・マンデヴィルによる『東方旅行記』もある。こちらは訳書のなかでも,著者自身が実在の人物であるか疑わしいとされ,その記述は実在しないものばかり書かれていると位置づけられている。
このたびの発端はマルコ氏の父,ニコロ・ポーロとその弟マテオ氏による2人旅である。彼らが先にフビライ・カーンの宮廷に出かけたのだ。そして,一旦帰国し,今度は息子のマルコを連れて再びカーンの元へ。そのあたりのことが序章に書かれているが,本文に入ると,まさに「見聞録」に終始し,この3人のことはほとんど書かれていない。また,それは訳者の解説にも書かれているように,この時代にはまだ旅行記というジャンルも確立していないし,当然小説なんてものもない。そもそも,本書がどの程度読者のことを念頭においていたか分からず,その記述は平板で退屈なものである。おきまりのくだりは「○○の話はこれくらいで切り上げ,次には△△について述べることにしよう」というものだ。確かに,200年後の『コロンブス航海日誌』も似たようなものかもしれない。でも,あれはあれで毎日その場でつけることが,航海において重要な意味を持っていた。
そしてなによりも読んでいて私が思ったのは,この本から中国の雰囲気は何も伝わってこない,ということだ。わたしたちは学校教育でそれなりに中国の歴史を学んでいて古い時代からそれなりの印象を持っているが,それに合致するような記述は極めて少ないのだ。むしろ,中央アジアといった印象を受ける。そもそも,地名は現在の地名ではなく,また写本によってその綴りは異なっているらしく,一応訳者が同定はしているものの,そして,主要都市の分布は現在とは違うだろうが,わたしたちの知っている主要都市はほとんど登場しないのだ。まあ,下巻には黄金の国ジパングも登場するらしいから,期待したい。
古書店で見つかるのを待っているわけにもいかないので,Amazonで下巻とその『マルコ・ポーロは本当に中国に行ったのか』という本を注文してしまいました。

|

« また一週間前... | トップページ | 周りに妊婦多し »

書籍・雑誌」カテゴリの記事

コメント

「東方見聞録」ですか。ちゃんと読んだことはないですね。口実に基づく回想録ということから、本人が見聞きしたことでなく、色々と着色されているものもあるのでしょう。マルコ・ポーロは17年間、中国にいて元王朝に使え、行政官まで務めたのに中国語が話せないなんて、その経歴は疑わしいと以前からなんとなくイメージしていましたが、写楽など存在がよくわからない人物はけっこういますし、現在でも正体を明かさずに活動している人には、「本当は実在しないのでは」という噂になったりしますね。ナルセさんも、そのうち「東京ライブハウス見聞録」なんて、誰か(服部さんとか、中川五郎さんあたり)の話をまとめられてはいかがですか。

5月25日、「東京大学・医学部講堂前」。東大の五月祭で湯川潮音フリーライブがあるということで、本郷キャンパスへ。5月の最終日曜日というと、たいてい日本ダービーのある東京競馬場に行っているのですが、今年のダービーは6月になったので、昼からのイベントでも問題ありませんでした。スタートが30分ほど押しましたが、雨が上がって、目の前で潮音ちゃんの弾き語りを30分余り、7曲も聞けて満足。そのあと、フラメンコ舞踏団の屋外公演を観ましたが、これがなかなかのものでした。本場のフラメンコも、いつか見たいものです。

26日は、青山の「プラッサオンゼ」でchie。ヤマカミヒトミさんのサポートもあるということで楽しみにしていました。お店に着き、カウンターに着席。ほどなく、サカウエ氏登場。開演予定の20時でも客入りは20人ほどでしたが、20分押してスタートしたときはほぼ満員でした。A.C.ジョビンの曲を中心とした1stステージが21時で終了すると、Saigenjiがやって来ました。当然のように2ndでステージに上がりましたが、結果として非常にお得な一日になりました。リハーサルなしで、簡単な確認だけでSaigenjiが加わわると、とてもスリリングな演奏に。Chieさんが引っ込んで、Saigenjiのオリジナルを1曲。リクエストがあり「いるか」をお願いしましたら、やってくれました。ここで最高に盛り上がって、再びchieさんにマイク。アンコールを含めて2ndは90分近く、ワンマン並みに充実したステージ、今年最高のライブになりました。

投稿: TOPS | 2008年5月27日 (火) 12時41分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/218863/41329297

この記事へのトラックバック一覧です: 東方見聞録:

« また一週間前... | トップページ | 周りに妊婦多し »