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視覚芸術の意味

アーウィン・パノフスキー著,中森義宗・清水 忠・内藤秀雄訳 1971. 『視覚芸術の意味』岩崎美術社,443p.

パノフスキーの名前は,英国の地理学者コスグローヴ&ダニエルス編『風景の図像学』の序文で知った。1988年に出版されたこの論文集の翻訳に私も無理矢理参加させてもらった。というのも,編訳者は当時国際に本文化研究センターの千田 稔氏と,お茶の水女子大学の内田忠賢氏だった。またまた,ちょくちょくお茶大に研究会か何かでお邪魔していた大学院の後輩が,そんな翻訳の企画があるという話を知らせてくれたのだ。ちょうど,私はめぼしい論文集の序文を翻訳したりしていて,本書の序文も翻訳していた。ということで,私も参加させて欲しいと内田氏に嘆願したという経緯。
まあ,それはそれとして,まさに「iconology of landscape」というのはパノフスキーから借りているといっても過言ではない。つまり,イコノロジーという表現は,パノフスキーの1939年の著作『イコノロジー研究』からきているし,本書に収録されている1953年発表の論文「イコノグラフィとイコノロジー」も序文で引用されている。イコンとはアイコンのことであり,パソコンのインタフェイスとしてわたしたちも馴染みがある。例えば,インターネットエクスプローラで「家」の絵柄が「ホーム」であるように,ヨーロッパでは古くから宗教画や紋章などで,図柄で記号伝達を行なう伝統があった。そういう,絵柄とその意味を一覧にするようなものがイコノグラフィという。アイコンを記述すること。しかし,そのアイコン=図像というのは常に一義的に意味が決定されるものとは限らない。そうでないものは,そこに不安定な「解釈」が介在するのだ。そうしたアイコンを解釈したり,論理的に分析するのがイコノロジーというわけだ。
この研究はいわゆる美術史という分野になるわけで,英国ではケネス・クラークを代表として長い歴史があるように思っていたが,パノフスキーによるとそうでもないらしい。ドイツ出身のパノフスキーの先人といえば,亜ビィ・ヴァールブルクがいるが,パノフスキーの特徴的なことは,第二次世界大戦直前に彼は渡米し,アメリカの大学で研究を続けたということだ。その辺りのことは,終章の「合衆国における美術史30年」という文章に詳しいが,パノフスキーはいわゆるドイツから亡命した知識人の中の一人ではなく,正式に招待されてドイツの大学から合衆国の大学に移ったらしい。古代から中世,ルネッサンスを経て近代へ,と美術史のフィールドはもちろんヨーロッパだが,美術史の研究については本家ヨーロッパよりも20世紀の合衆国の寄与するところが大きいという。美術品のコレクションから,その学術的な研究まで。大西洋をはさむ両大陸での大学の制度の違いまで,かなり詳しく記述してある終章もなかなか面白い。序章と終章を除いた具体的研究に当てられた章は,特定の時代の特定の絵画,絵画テーマ,題材,というものに対するかなり細かい分析です。人体比例理論,ティツィアーノ,デューラー,アルカディアなどなど。
近年の地理学における景観研究には図像学的分析が欠かせないし,カルチュラル・スタディーズのなかでもヴィジュアル・カルチャー研究ってのが盛んになっている。そんななかで,こうした著作が必読書であるだけでなく,大いに読書的刺激を受けることができる素材はまだまだいっぱいあって楽しみ。でも,この種の図版も含んだ本は大抵高いのが悩みの種。

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