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隠喩論

久米 博 1992. 『隠喩論――思索と詩作のあいだ』思潮社,206p.,2400円.

隠喩論については2004年の『地理科学』掲載論文「場所の文法」で一通り論じたし,その際にそれなりの著書には目を通したはずだが,この本は知らなかった。今更感もあったが,たまたま外出先で持参した本が読み終わりそうで,本書は比較的薄かったので,予備のつもりで買ったもの。しかも,上記論文でも大いに役に立ったポール・リクール『生きた隠喩』の訳者による著書ともなれば読んでおいても損はない。
そう,本書の著者はもちろんキャスターの久米 宏ではない。ポール・リクールのほとんどの著書を翻訳している人だ。しかし,訳者としてあまりに有名なので,本人がどんな研究をしているかは謎。そんな好奇心にも答えてくれる一冊になるだろう。予想通り,翻訳が中心の研究者であるから,自分自身の独自の論の展開は少なく,他人の議論の紹介が中心であるため,文章はだらだらと長くはならない。でも,200ページという短いなかでも非常に充実した内容となっている。一応,私の論文と同様に,一通りリクールやデリダ,デイヴィッドソンなどの議論を踏まえることで,隠喩というものを比喩表現の一つとしてのみ考えるのではなく,言語の本質的な存在として隠喩を捕らえていることがわかる。故に,隠喩論にとどまらず,アリストテレスにまでさかのぼり,ヴィトゲンシュタインを経由し,ハイデガーがかなり詳しく検討される。要は,言語一般論が多くの紙面を割いて論じられるのだ。しかし,一方では隠喩と換喩,提喩などについて細かく論じられる箇所もあり,なぜだか私には退屈だったりする。
まあ,ともかくリクールほどの人の著作を多く訳す人であるから,もちろんリクールだけ読めば言い訳ではない。私自身,実はリクールをあまり読んでいないが,わずかに読んだなかでも,フランス人であるリクールだが,英語圏の動向などもかなり丁寧に辿る人であることは知っているし,何ヶ国語できるか分からないほど博学である哲学者。その訳者である久米氏も,相当の読書家であることがうかがえる一冊であった。
本書を直接参照するということはないと思うが,更なる読書への良質な案内書となるだろう。

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