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お尻に火をつけて

鈴木亜紀 2008. 『お尻に火をつけて』晶文社,252p.,1700円.

鈴木亜紀さんはピアノ弾き語りのシンガーソングライター。今はなき,川越の「鶴川座」という,古い芝居小屋をそのまま利用したライヴハウスで行なわれた,ライヴイヴェントに出演していたのを初めて聴いた。ピアノの鍵盤がお客さんの方を向いていて,「お尻を向けてスミマセン」という一言がかわいらしく,「パン粉で揚げたものをまたパンで挟むなんて」というフレーズのある「ハムカツサンド」という曲が印象的だった。他の出演者はNUU,広沢タダシ,ハンバートハンバート,ハシケン,リクオという私の好きな人ばかりで,そのとき初めて聴いた有山じゅんじさんや,東京60WATTSなどもいたが,なんといっても鈴木亜紀にやられた日だった。
彼女がホームグラウンドとしている外苑前のZ・imagineというお店のマンスリーライヴにはその後4ヶ月連続で通ったような記憶がある。
ステージ上ではかなり素な状態の彼女だが,意外にシャイのような気がする。私はすぐに仲良くなれるミュージシャンと,顔見知りになってもなかなか打ち解けない人といるけど,鈴木亜紀さんは後者。私もなぜか緊張してしまい,未だに上手く話が口から出てこない関係。そんな彼女は以前,開演を待つお客さんに「さくらえび通信」という,誰もが小学校の頃に作ったような,手描きの新聞のようなものを配っていたらしい。旅行好きな彼女はそんな旅行記をまとめて書いていたのが「さくらえび通信」。残念ながら私はそれをもらったことはなく,もう作らないのかなあ,と寂しく思っていたら,過去のものがまとめられて一冊にされたのが本書。しかも,私もけっこう持っている晶文社から出版というから驚きだ。亜紀さんは以前にも自らの写真集を出版しているし,CDの方は10年間で3枚半というからのんびりだが。ちなみに,「半」というのは,本書と同時期に発売されたのは中ムラサトコさんとやっているイヴェント「鍵盤女」のライヴ盤であり,また自主制作盤であるから。
さて,本書の内容ですが,以下のような感じ。
i
惑星リリアナ(アルゼンチン)2004年5月
ii
Mの帰郷(愛知県湯谷温泉)2000年5月
北の冬(青森)200年3月
みんな中国へ行く(中国西安)1999年9月
もの思い(沖縄)1999年11月
ここは地の果て(スペイン)2001年11月
はずれの旅(島根県出雲)2001年4月
ただよう正月(沖縄)2001年1月
お尻に火をつけて(スペイン)2003年5月
iii
果ての海(アルゼンチンウシュアイア)2007年10月

1章はけっこう長い。1章分が1回に配られた「さくらえび通信」だったのだろうか。まあ,シンガーソングライターというのは詩人でもあるわけだから,こうしたちょっとした文章でもつまらないわけがない。ただ単に旅の行動が臨場感溢れて伝わってくるだけではなく,亜紀さんの心情の動きがよく分かるところが面白い。それに,そもそもが旅先での珍事がなんといっても素敵だ。上に,単なるお客さんとは誰とでも打ち解けるわけではない,と書いたが,そういう人ほど旅先での一期一会の度胸が素晴らしい。私なんて,そもそも人見知りだが,旅先での出会いなんて未知数なものに気体はできないタイプだ。そもそも,それが不安で旅はあまり好きではない。でも,他人の旅日記を読むのは好き。
さて,そんな旅日記だが,なんといってもシンガーソングライター鈴木亜紀として読み応えがあったのが,冒頭の「惑星リリアナ」。リリアナとは亜紀さんが惚れ込んだアルゼンチンのシンガー,リリアナ・エレーロのこと。亜紀さんは10年前にリリアナを知り,来日公演を待ち望んだが,日本では一部でしか知られない存在であり続け(まあ,CDは置いてあるくらいだが),一向に来日する気配がないので,アルゼンチンまで聴きに行った。この旅日記はその時のもの。そして,日本の人にもリリアナを知ってもらうべき,リリアナのCDの日本盤を,亜紀さんの解説付きで発売し,そして昨年はついに亜紀さんが企画してリリアナ来日公演まで実現したのだ。私もその話は亜紀さんのライヴでよく聞いていたので,吉祥寺star pine's cafeで行なわれたライヴには足を運んだ。そのライヴは満員御礼,大盛り上がりで大成功に終わったわけであるが,私的にはリリアナの偉大さをそれほど実感したわけではなかった。しかし,この旅日記を読んで,いかに初めてリリアナに会いに行ったときの亜紀さんの旅が面白いもので,また亜紀さんを迎え入れるリリアナファミリー(本当の家族という意味ではなくスタッフや周辺ミュージシャンなどのこと)の暖かさなど知り,その旅がいかに愛に満ちたものかを知ることができる。そんなこともあって,できれば,昨年のリリアナライヴの前にこの文章を読んでいれば,より楽しむことができただろうと思う。

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コメント

確かにミュージシャンには、すぐに仲良くなれる人と、顔見知りになってもなかなか打ち解けないタイプがいますね。
僕には前者だと辻香織とかイノトモ。後者の典型は、ありましの、戸田和雅子。僕も鈴木亜紀さんは後者のタイプでしたが、飲み会に行ったりして相当親しくなりました。キッチンの二人なんかもそうです。逆に安宅浩司さんや熊坂義人さんとはすぐに打ち解けました。比較的「ボブテイル」で知り合った人とは、よく話をするような気がします。いまだにハセガワミヤコとは挨拶程度しか話をしたことがなかったりしますが、突然よく話しをするようになったりする可能性もあるし、まあ不思議なものです。

27日は表参道のハンバーガ店で、BE THE VOICE。圧倒的に女性が多かった(50人中、30名ちょい)のと、子ども連れもちらほらで、ライブも明る過ぎる印象でした。

投稿: TOPS | 2008年8月29日 (金) 13時09分

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