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シェイクスピアの驚異の成功物語

スティーヴン・グリーンブラット著,河合祥一郎訳 2006. 『シェイクスピアの驚異の成功物語』白水社,583p.,4200円.

本書は新歴史主義を代表する歴史家,グリーンブラットによる,シェイクスピアの伝記的作品分析。訳者あとがきでも書かれているように,ポスト構造主義やポストモダン思想にも含むことのできる新歴史主義は作家論とは縁遠いところにある。フランスの批評家ロラン・バルトが「作者の死」や「作品からテクストへ」という文章を書いて以来,作品の解釈を作家の伝記的記録に基づき,作家のいいたいことを探るような古典的文学研究は時代遅れとなった。
なので,グリーンブラットがこの手の一般書に手を染めるというのはどうしたことか!ということらしい。でも,新歴史主義についてイマイチ分かっていない私にとってはこの辺りはよく分からない。新しい歴史学のあり方は,上で書いた文学批評と同様に,その時代の歴史資料から,説明したい事柄を決定論的に説明する旧来の歴史研究を「歴史主義」と批判したのではないか。そうしたポスト構造主義的な「反歴史主義」の行き過ぎを是正しようという更に新しい歴史研究の態度を私は勝手に「新歴史主義」と呼ぶものだと思っていた。そう考えれば,その代表論者が一見,作家論ともいえる作品を書くのは納得がいかないか。この訳者の解説を読んで,ちょこっと,構造主義論争とは縁遠いところにいるアメリカの批評家,ケネス・バークの議論を思い出した。彼は作家の伝記的記録に頼りすぎるのはよくないが,利用できる資料は何でも使うべきだと書いていたような気がする。
ところで,本書は読んですぐに分かるように,彼自身によるこれまでのお堅い研究所とは異なり,非常に読みやすい。私はそれほど多くシェイクスピア作品を読んでいませんが,引き込まれていきます。グリーンブラットは一般書であるという利点を上手く利用している。もちろん,これまでの歴史でシェイクスピアの伝記というのは無数に書かれた。元々,作品以外には個人的な記録をほとんど残していないシェイクスピアだからこそ,その謎に迫る果てしない努力がなされてきたのだ。
しかし一方で,グリーンブラットはその真面目な探究心の矛先を換える。これまでの伝記はフィクションとしての作品が,どのようなリアルなシェイクスピアという人物によって生み出されたのか,という因習的な認識論だが,グリーンブラットは,実在するリアルな作品から,どんなイマジネイティヴな人物が浮かび上がるのか,そんな謎解きの仕方のように思える。あくまでも,シェイクスピアの実生活については推測の域を超えないのだ。だったら,それを推測であることを前提に,大胆に作品中の記述の特徴を執筆年代ごとに抽出してまとめあげ,確認されている伝記的事実,そして彼を取り巻く社会的状況と結びつけ,新たな作品解釈を試みようとするのがグリーンブラットの意図である。
細かく説明するときりがないが,とにかく読み物としてとても面白い作品です。

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