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The tourist

Dean MaCannell 1976. The tourist: a new theory of the leisure class. University of California Press: Berkeley, 231p.

観光研究の古典。本書は1976年に出版されたものだが、私が購入した版は、Lucy Lippardという人物が序文を書き、1989年半に寄せる導入を著者が書き、1998年に著者自らがあとがきを書き足しているものだ。地理学者でも、荒山正彦や滝波章弘などは決まったように、ブーアスティンの『幻影の時代』とセットで本書に言及する。私は大学院時代の先輩である鶴田英一さんの書棚で本書をみつけた。確かに、本書のなかに「旅行者から観光客へ」という分かりやすいブーアスティンの議論を批判する箇所はあるが、それだけではなく、本書の魅力は多岐にわたっている。ただし、いつもどおり辞書なしで読んだために理解しきれていない箇所も少なくない。まずは目次を示そう。ちなみに、touristという単語は本書以前には一般的ではなかったようだ。tourismを形容詞的に使ったり、その形容詞形を名詞的に用いて「観光客」とする使用法は本書で一般的になったようです。そして、本書では「観光」の直訳に当たるshightseeingとtourismとは区別されて使われている。なお、tourist attractionとは「観光資源」と訳されるのが一般的。authenticityも本書のキーワードの一つであるが、「真正性」と訳す。

1 近代性と観光の経験の生産
2 観光と社会構造
3 パリの事例:代替的余暇の起源
4 その他の観光資源
5 上演的真正性
6 観光資源の記号論
7 観光客のエスノメソドロジー
8 構造、本物らしさ、にせもの
9 理論と方法、応用について

上で本書の魅力は多岐にわたると書いたが、私的に重要だと思ったのは以下の2点。1点目は非常に経済的な次元だ。本書における「近代」とは特別な使用法であるように思い、場合によっては「ポストモダン」で代替できるかもしれない。すなわち、本書においては「ポスト産業時代」が「近代」なのだ。社会が第2次産業から第3次産業へと転換し、第2次産業そのものが相対化され、見世物とされた時に第3次産業の一分野としての観光産業が立ち現れる、とマッカネルは論じている。これが近代の分岐点なのであれば、まさに観光という現象・行為は近代を代表するもので、これを研究することにより、近代性を理解することができるとうのだ。
この近代性の捉え方は面白いが,一般の理解とはかなり異なっているように思う。しかし,きちんと規定されているのでそれはそれで大丈夫。ともかく,この著者のいう近代期には第1次産業,および第2次産業はそれ自体で完結した行為とはならず,それ自体が第3次産業の一部である観光産業へのアトラクションを提供するというのだ。いわば,一般的な近代性の特徴である「万物の商品化」ならぬ,「万物の見世物化」といったらいいだろうか。まあ,ある意味ではドゥボールの『スペクタクルの社会』と似たような主張かもしれない。
さて,もう一つの特徴は,本書が観光研究の先駆的な研究でありながらも,近年のポスト観光やオルタナティヴ・ツーリズムを早くから主張している点だ。そこが,ブーアスティン批判としての「オーセンティシティ」論と関係する。一応社会学者という著者(かなりジャーナリスト寄りだと思うが)が拠り所とするのはデュルケムであり,ゴッフマンである。特に5章は真正性の問題をゴッフマンの上演論的アプローチにしたがって前面frontと背面backの現実性として論じている。観光現象に関わるさまざまな主体の違い,視点の違いを考慮しているが,それらは単に役割が違うだけではなく,複雑に絡み合っている。観光業者は単に産業における商品の生産とは異なる。そして,しまいには9章の最後に「観光世界の終焉」などという節まで書いてしまうのだから,どこまでも先駆的だ。
ちなみに,エスノメソドロジーは言葉だけで,別にガーフィンケルなどが参照されるわけではない。でも,残念なことはやっぱり完全に理解できた部分はそれほど多くないってことだ。誰か翻訳してくれないかな。

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