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自然哲学再興/ヘルメス哲学の秘法

ジャン・デスパイエ著,有田忠郎訳 1977. 『自然哲学再興/ヘルメス哲学の秘法』白水社,240p.,2000円.

本書は白水社が全7巻で刊行した「ヘルメス叢書」の第2巻。もともと著者はフランス人のようで,本書に収められた2つの文章は1625年に書かれたものらしいが,現代のフランス人によって編まれた叢書であり,この日本語訳はフランス語訳からの重訳である。そして,フランス版の叢書には,ルネサンス期の原文だけでなく,現代の研究者による研究論文も収められているようですが,日本語訳では歴史的な原典のみを収録している様子。残念ながら,巻末の訳者による解説にはその辺の事情が詳細には書かれていません。
ヘルメス哲学とは,ルネサンス期に流行ったオカルト哲学の一つ。ルネサンスという時代は,ヨーロッパの長く安定した中世を終わらせ,近代という新しい時代を準備する重要な移行期。ルネサンスというのは学校で芸術復興みたいに習うように,新しい考え方をするために古いものを見直す時期でもある。そんなヘルメスとは,古代エジプトのヘルメス・トリスメギストスという人物の思想に拠り所を求める哲学。
「自然哲学再興」は基本的に聖書における「創世記」の新たな解釈だといって良いのだろうか。といっても,創世神話は聖書のみに限定されるわけではなく,ヘシオドスの『神統記』などにもあり,いろんなパターンがある。もちろん,その後のアリストテレス『自然学』を受けてのことでもある。どうやら,ヘルメス哲学には「三位一体」という原則が中心にあるようです。なので,アリストテレスもそうだった四大要素の考え方はこのなかでは厳格には信じられていませんね。第五の要素としてアリストテレスも言及した「エーテル」はよく出てくるし,原子論者とも近い考え方として,第一質料という概念も出てきます。これはどちらかというとプラトンに近いものでしょうか。まあ,アリストテレスが支配的だった中世に対して,ルネサンスにはプラトンが再評価されますから,そうなのかもしれません。でも,アリストテレスの名は原文中によく出てきますが,プラトンは登場しません。創世記にもある早世の7日間によって神の手で宇宙は造られたという点は一緒ですが,なぜか太陽にこだわります。天動説を批判し,太陽を宇宙の中心と見做します。動植物の創造についてはなにも言及がなく,いきなり人間の話です。また,創世の1日(神にとっての1日)というのは,人間の1000年に値すると述べ,創世から既に1万年ほど経過していると考えている点も面白いというか,ルネサンス的というか。三位一体の話は単なる自然を理解する哲学的問題というだけでなく,次の文書における錬金術の技術的問題にも関わります。
「ヘルメス哲学の秘法」という文章は,要するに錬金術の技術についての説明です。しかし,解説にもあるように,これを読んだからといって錬金術が使えるようなものではなく,極めて哲学的なないようです。「賢者の石」出てきましたねえ。『ハリー・ポッター』の第一作のタイトルにも出てきますが,それが何を意味するのかはよく分かりません。この文章を読んでもよく分からないのです。まあ,ともかく万能物質というようなやつでしょうか。その製法について色々書いてありますが,ことごとく概念的で抽象的です。そして突然人間の生殖の話になったりする。「錬金術」というと,なにやら人工的に金を作り出して,金儲けするようなイメージがある。基本的に当時は四大要素論を代表として,宇宙は片手で足りるほどの基本的な要素の組み合わせによって全ての物質ができていると考えられたから,それらを分解して再結合すればどんな物質ても出来上がると考えるのは無理もない。一方では,実際にそうした金を人工的に作ろうとした人もいるでしょうけど,もう一方では,そんな単純の要素から成り立っている宇宙全体と,人間の身体を相似的に結び付けようという宇宙論を展開するのも容易だったのかもしれません。
ともかく,オカルト哲学というくらいだからもっと読みにくいのかと思いきや,けっこう読みやすく,そして面白いです。

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