« リアリティ・クライシス | トップページ | たまには2日連続5組ライヴ »

Nature

Noel Catree 2005. Nature. Routledge: New York, 281p.

以前,『landscape』という本を紹介したが,それと同じRoutledgeの「Key Ideas in Geography」というシリーズのなかの一冊。Castreeは私が『地理学評論』に2001に掲載した論文で引用したが,もう10年以上,人文地理学者として「自然」を研究テーマとしている。つまり,「自然」という概念は単に人間以外の万物であるとか,人間の手が加わっていないものとして理解されることが多いが,そう理解しようとすること自体がいかに人間中心的なものかが分かるというものだ。つまり,Castreeは自然と人間の関係について考えてきたはずの地理学者も含めた多くの人が自然を語るとき,そこには必然的に忍び込むイデオロギーが存在する,といいたいのだろう。と私は理解している。つまり,エコロジーなどといって,自然を大切にし,人間のこれまでやってきた行いを悔い改めようという前に,自身がそこでいっている「自然」という概念がどういうものなのかを考え直すべきだということだ。
まあ,そんな思想の下だが,本書はちょっと変わった志向で書かれている。まずは目次をみてみよう。

まえがき
 議論
 読者
 この本の使用法
 構成
1 奇妙な自然
 自然のお話
  血の結びつき
  ブリテン島の熱帯
  性,暴力,そして生物学
  バイオテクノロジーの「新」と「旧」の自然
  魚は権利を持つか?
  危機,なんの危機?
  より少ない遺伝子しか持たないのはあなたにとって良いことである
 自然の知識
 自然と地理学
 道は作られていない
 自然は死んだ!自然は生き延びた!
 要約
 練習
 さらなる文献
2 地理学の「自然・性質」
 はじめに
 始まり
  ハルフォード・マッキンダー(1861-1947)
  ウィリアム・モリス・デイヴィス(1850-1934)
  アンドリュー・ジョン・ハーバートソン(1865-1915)
  進化論の衝撃
  反省
 20世紀初頭の発展
  「「中間地帯」を占有すべきか,空けておくべきか?それが問題だ。」
  地理学における自然と地理学の自然
 戦後の騒動
  2つの地理学?
  震源
  自然の諸知識
 存在論的分割と人文地理学の脱自然化
  自然から解放された人文地理学?
  環境を強調しない:不自然災害と第三世界の政治生態学
  自然地理学:純粋で応用的な自然の知識
 抑圧された状態に戻るのか?
  1980年代の人文地理学:自然のさらなる消去
  1990年代を通しての人文地理学:自然の再発見
  そして,1990年代を通した残りの地理学?
 要約:地理学の自然
 練習
 さらなる文献
3 脱自然化:自然を「呼び戻す」
 はじめに
 先例
  自然のイデオロギー
  不自然災害:物理的環境を強調しない
 自然の表象
  真実,虚偽,そして自然
  ヘゲモニーと自然の概念
  言説,自然,そして現実の効果
   自然の諸文化
   自然の言説を脱構築する
   言説,規律訓練,自然そしてフーコー
   ハイパーリアリティと仮想自然
 自然の再生
  非人間の物質性
  自然の生産
 なぜ自然は社会的構築物だと論じるのか?
 要約
 練習
 さらなる文献
4 2つの自然?地理学の分裂/統合
 はじめに
 環境現実主義:アジェンダと正当化
 科学的知識の社会的構築
 現実主義的環境知識の生産
  自然地理学における科学的方法
  科学的方法の問題と原則
 生物物理的現実の理解:いくつかの重要な論争
  存在論的問題
  認識論的問題
 分割された学問分野
 練習
 さらなる文献
5 自然のその後
 はじめに
 自然的でもなく,社会的でもない
 相関的に考える
  非表象理論/行為遂行性
  アクターネットワーク理論
  新しい弁証法
  新しい生態学
 自然の後の道徳
 ポスト自然の考え方の動機は何か?
 結語
 練習
 さらなる文献
6 結論:地理学の自然
 さらなる文献

内容を細かく説明するのは面倒だし,詳細まで覚えてないので,詳細目次を記した。このシリーズの本を読んだのはまだ2冊目だが,なかなか盛りだくさんの内容であり,だからといって一つ一つの議論が蔑ろにされているわけでもない。本書の面白いことは,ある種の地理学の教科書として使える内容を持っていること。しかも,自然というテーマに限定しての教科書ではなく,自然地理学・人文地理学を包括した地理学一般論の教科書として使えるし,著者もそのことを意図している。しかし,もちろん単に地理学的方法や知識を身につけようという目的の学生・読者に向けられるようなものではなく,その根本を問い直すように序文で注意書きしている。
つまり,本書は社会一般における「自然」の扱いだけではなく,これまでの地理学者が自然をどう扱ってきたか,どう考えてきたか,どう理解してきたかを考察する。いわばメタ地理学的な研究といえようか。私の関心はせいぜい3章の内容で留まっているが,本書はその先の先にまで話が及ぶ。上の目次でも「社会的構築」という言葉が何度か出てくるが,この思想さえ,本書では寄って立つべきものではなく,多くの考え方の一つに過ぎず,それに対する批判も用意してある。最近森 正人氏の論文「言葉と物」でも紹介されていたスリフトの「非表象理論」とかアクターネットワーク理論とか,どうも英語圏地理学にはまだ「流行」という概念があるらしい。まあ,だからといって,著者は新しいことがいいことだというような論調でもなく,とにかく手持ちの札は全部見せて,判断は読者に任せているようなところがあるのは,やはり本書が教科書的な性質を持っているからだろう。
やっぱりこのシリーズはなかなか面白い。少し版が小さくて持ち運びも便利だし,文章も嫌になるほどは長くない。他のも少しずつ集めることにするか。

|

« リアリティ・クライシス | トップページ | たまには2日連続5組ライヴ »

書籍・雑誌」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/218863/44724429

この記事へのトラックバック一覧です: Nature:

« リアリティ・クライシス | トップページ | たまには2日連続5組ライヴ »