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近代ツーリズムと温泉

関戸明子 2007. 『近代ツーリズムと温泉』ナカニシヤ出版,206p.,1900円.

ナカニシヤ出版とは,たまに地理学の本を出版している会社で,以前友達の地理学者に紹介されて若い女性の編集者と一緒に呑んだことがある。そんな出版社が,編者に千田 稔,山野正彦,金田章裕を企画委員に迎えて,叢書「地球発見」を出版している。1冊目の千田 稔『地球儀の社会史』を出版したのが2005年の12月。なのに私は全く知らず,先日の日本地理学会に出店していたブースでそれを知った。もうすでに12冊まで出ているそうだ。
本書はそんな叢書の7冊目。叢書名はどうかとは思うが,他にも魅力的な本が並ぶ。思わず2冊買ってきたが,本当はもう2冊ほど買いたかったほどだ。でも,そもそも私が本書を(そして叢書自体を)知らなかったのは,私が所属している学会の雑誌に書評がなかったからだ。そもそも,日本の地理学者は書評に積極的ではない。そのなかでも,既に故人だが,日本地理学会会長もつとめた竹内啓一氏は生涯にわたって数多くの書評を残している。そのうち100編が1冊の本『伝統と革新――私が読んだ99の地理学』(2003年,古今書院)になっているくらいだ。かくいう私も書評は好きでこれまで15編の書評を書いている。しかし,研究者人生15年にして15編だから,竹内さんには到底かなわない。
まあ,書評ってものは新刊を紹介したり,批評したりするべきなので,2007年8月刊の本書を書評するなんて遅きに失するにもほどがあるが,ちょっと書いてみようと思っている。そこで,そのナカニシヤ出版の編集者に本書の書評が出ているかどうか問い合わせたところ,『地理』という月刊誌と,『鉄道史学』に出ていることを教えてもらった。ちなみに,『日本経済新聞』にも紹介記事が出ているとのこと。『鉄道史学』の書評は今年の2月に出ているらしいから,まあ大丈夫かもしれない。
詳細はそちらで書くことにして,端的にいうと書名から私が期待したような内容ではなかった。といっても,簡単に私が批判できるようなものではない。関戸明子氏は私が尊敬する数少ない日本の地理学者だからだ。彼女は当初は社会地理学的な研究(民俗学にも近い)からはじめたが,最近はもっぱら近代期の歴史地理学を専門としている。そういう意味では私の関心と重なる部分は少ないのだが,そして読んだことのある彼女の論文も数本しかないが,彼女の継続的な研究には頭が下がる。大抵は大学院時代に論文を書き溜めて,大学に就職すると学術雑誌には書かなくなり,本数自体も少なくなるのが世の常だが,彼女の場合は堅実な研究を確実に世に送り出している,という印象が私にはある。単著こそ少なく,本書が2冊目だが,編著,そして寄稿した文章の数はどのくらいになるのだろうか。
でも,私にとってはその堅実さが最大の不満につながっているのだろう。確かに本書に整理された,近代期の温泉にまつわる言説の整理は非常に網羅的で私ごときが突っ込むような余地は全くない。しかし,少ない資料から多くを語りたがる私にしてみれば,もっと大胆な解釈をもっと盛り込んで欲しいと思うのは贅沢だろうか。その大胆さは本書の表題にのみ現れている。また,「まえがき」にもその一端は記述されているのだ。そう,温泉というのは日本人にとって近代以前から重要なものであり続けた。日本の近代化は非常に急速で,時代的に明瞭である。しかし,そもそもどの文化にも「旅」を持っているように,近代ツーリズムの浸透は世界中どこでもそう単純ではないはずだ。この「温泉」というテーマはその近代ツーリズムへの移行の複雑さを明らかにしてくれる重要なものだと私は期待したのだ。しかし,実際本書の内容は温泉好きが喜ぶような,日本全国の温泉についての平板な記述が羅列されている。後半では戦争に絡む話で面白くはなってくるが,この辺りのことは散々議論されているもので,それらを覆すような事実を提示しているわけではない。
そんな感じで,けっこう面白そうな書評が書けそうかな。

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