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皇紀・万博・オリンピック

古川隆久 1999. 『皇紀・万博・オリンピック――皇室ブランドと経済発展』中央公論社,247p.,700円.

中央新書の一冊。本書が発行されたのは私が大学院の博士課程を修了しようとしている頃。ちょうどその頃大学院修士課程に他大学から入学してきた女性がいて,終わったばかりの長野オリンピックを題材に研究をしたいといっていた。彼女の卒業論文は私の論文を参照していたことから,私もそれなりに相談に乗っていたのだが,そんなことでオリンピックの政治性みたいなテーマはちょっと頭の片隅にあった。実際に本書を購入したのは古書店のようだが(巻末に鉛筆で350と値段が書いてある),購入の動機にはそんなことがあったと思う。でも,最終的には彼女の修士論文のテーマは別のものになって,私の関心とは離れたものになってしまったのだが。
さて,本書はタイトルから分かるように,オリンピックといっても,日本のある時期に限定されている。端的にいえば,1940年に計画され,戦争のために幻と消えた東京オリンピックと万国博覧会だ。今日では万国博覧会は,2016年のオリンピック招致合戦のように盛り上がりはしないものだが,20世紀前半は同じような盛り上がりをみせ,万博もオリンピックも同時開催など双方が認めるようなものではなかったが,時代が時代で万博はともかく,オリンピックは開催決定までこじつけたとのこと。もちろん,このことは日本が日中戦争から太平洋戦争へといたる,自信に満ちた拡張政策と無縁ではない。その戦争では天皇が神格化され,思想的な支柱になったのは周知のことだが,本書はそれを「皇室ブランド」と名づける。しかし,一部の研究がそれに大きな影響力を与えるのに対し,本書はそれはあくまでも名目的なものにすぎないという。つまり,万博にしてもオリンピックにしても,運営側も国民も,望んでいるのはそうした天皇を頂点とした国民統合などではなく,それがもたらす経済波及効果だと断言する。戦争ですらも,戦勝によって敗戦国からもたらされる賠償金などを目当てとした金儲けの手段だったという視点はなかなか面白い。そのせいか,タイトルに上げる割には天皇の話が少ないのはちょっと物足りない。
あまり期待しないで読み始めたが,なかなか面白い本。さすがに私には細かい記述が退屈で,いい加減に読んでいると重要な前後関係が分からなくなったりして困りますが,中公新書ものとしてはかなりレベル高いです。しかし,やはり近代日本ものはけっこう論調が似てきてしまうのは避けられないんですかね。

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