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空腹の技法

ポール・オースター著,柴田元幸・畔柳和代訳 2000.  『空腹の技法』新潮社,347p.,2200円.

1985年に『ガラスの街』で長編小説デビューした,アメリカの作家,オースターについていろんなことを知ることができる。本書は3部から成っている。一部はエッセイ集,二部は序文集。そして,三部はインタビュー集。私は作品を作家の自伝的情報抜きに読みたい方なので,本書は持っていなかったのだが,最近本格的に彼の作品について研究をしようと,いろいろ関連文献を探していたら,「空腹の芸術」(このエッセイが本書のタイトルになっているのだが訳者は,原語のartをこのエッセイには「芸術」を,本のタイトルには「技法」をあてている),「ニューヨーク・バベル」,「赤いノートブック」の3編を訳出した雑誌『新潮』(1995年12月)をコピーして読んでいたが,この3編は全て『The art of hunger』に収録されている。でも,「赤いノートブック」は1992年のエッセイであり,新潮社が翻訳した版には収録されていない。また,本書に収録されたインタビューのうち,2編は既に先日紹介した彩流社の『現代作家ガイド1 ポール・オースター』に別の訳者により翻訳されている。
まあ,そんなものを読むうちに,この手のエッセイを読まざるをえなくなってきたし,引用する場合に本書からの引用の方が楽ということもあった。ともかく本書を読むと,オースターがどんな人生を歩んでいたのか,どんな文学的影響を受けてきたのか,そして文学に対してどんな考えを持っているのかがよく分かってくる。といっても,よくある作家論のように,フィクションとしての作品を,実人生を生きる作家の個人誌に関する情報で理解の助けにするという関係ではない。オースターはさまざまな意味で,従来の典型的な小説家とは違っている。といっても,近年はそういうのをポストモダン小説(文学)などと呼び,典型的でない作家は少なくはない。しかし,場合によっては難解になりがちなポストモダン作家とは異なり,オースターはとても分かりやすい。インタビューでも包み隠さずなんでも語っているし,作品中に難解な箇所があるのは,物事はなんでも完全に知ることができるという虚偽を彼自身が許さないからだ。自分自身のことですら分からないのは普通だからである。
本書に収められたエッセイも,序文集と同じように大抵は特定の作家や作品についての言及である。ほとんどが文学青年ではない私は全く知らない詩人や小説家だったりする(そもそも私は詩は読まないが)。基本的には自分の感性に近い作家を取り上げ,批判するようなことはない。オースターの評論文を読むとそれらの作品がとても魅力的なものにみえるようになるエッセイである。ところで,『ガラスの街』の理解を助けるもののように思った「ニューヨーク・バベル」というエッセイはタイトルと何の関係があるのかよく分からない。

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