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国家・権力・社会主義

ニコス・プーランツァス著,田中正人・柳内 隆訳 1984. 『国家・権力・社会主義』ユニテ,312p.,4120円.

なんと,あとがきには,第二版に寄せてということで,著者名はプーランザスの表記の方が良いと記しているので,ここではプーランザスと書くが,この人の名前をちゃんと知ったのは私が博士課程に入学する前後のことだったと思う。現在金沢大学勤務,当時大分大学にいた中島弘二さんを集中講義で招いた時のことだ。当時は私の同級の田子由紀君はもういなかったが(修士課程で中退),一番上は鶴田英一氏,中谷友樹氏,星野氏,そして下は宮澤 仁氏と豪華な面々で中島さんを迎えた覚えがある。そして,世話人だった島津俊之氏から声を掛けられて,まだ東大博士課程入学前の香川雄一君も受けに来ていた。
当時,文化地理学から政治地理学へと転向しつつあった中島氏。前半はウィトゲンシュタインの話から,だんだんアルチュセールやルフェーヴル,プーランザス,ジェソップなどの話に展開していったような,とても刺激的な講義だった。しかも,おそらくプーランザスの話のときだったと思う。全般的に受講者とのやりとりも活発な講義だったわけだが,鶴田氏の発言を覚えている。本書でも国家により独占資本化の話が出てくるのだが,日本のマルクス主義経済学に精通していた鶴田氏は,そんな話は日本の研究者が「国独資(国家独立資本論)」として既に前からしている,なんてことを主張していたのを思い出した。
さて,前置きはこの辺にして,本書は私が初めてきちんと読む国家論であり,政治理論の書であるといってもいいと思う。といっても,一応政治地理学は私の関心の一つだし,文化を研究するなかでも「政治学」というのはその中心的テーマでもある。私の読む本の多くは広義の政治学を取り込んでいるため,本書の内容が何から何まで目新しいというわけでもない。また,本書の立場も狭義の政治学に閉じこもったものではなく,非常に広範な関心を有しているともいえる。そもそも,著者はマルクス主義に基礎を置きながらも,その欠点を多く認識し,それを乗り越えようとしている。俗流マルクス主義は経済主義とか反映論とかいわれるように,土台構造としての経済が基礎にあり,政治やイデオロギーというものはその反映としての上部構造として捉えている。しかし,本書で著者はそれを真っ向から批判し,国家という政治形態と経済の関係を深いものとして提示する,その議論にはイデオロギー装置といったようなアルチュセールからの影響が明白だが,1章のタイトルが「国家の制度的物質性」とあるように,観念的なものを強調しがちなアルチュセールとは一線を画す。そして,議論自体は極めて抽象的だが,国家を担う事柄を一つ一つ解きほぐして説明する。微視的権力という議論で,国家というものの存在を弱めがちなフーコーの権力論を取り上げ,著者はあくまでも国家という存在の相対的自立性を主張する。法律に関する議論は私が考えていることをズバリいってくれてたりもするし,国民に関する議論も既にある。ただし,本訳書では「民族」の語が充てられている。
結局,プーランザスの国家理解は2章のタイトル「政治闘争――力関係の凝縮としての国家」に簡潔に言い表される。そして,国家の最大の役割は経済階級の再生産にあるといい,それこそが国家による経済的次元への介入であり,また国家の重要な役割だという。ここまでの話は私にもそれなりに理解しやすかったが,特に面白かったのは「国家のスタッフ」という節で,具体的に国家を担う役人たちに関する話だった。結局かれら自体がブルジョア階級の一員であり,政治家は政治家として再生産される。選挙権は多くの有権者が行使するものの,被選挙権を行使しようと考える人はごく限られた人物だ。まあ,そんな分かりやすいことは書いていないけど,勝手に自分の分かりやすいように理解することはできた。そして,よく読むけどあまり理解していなかったボナパルティズムについても少し分かったような気がする。結局は,日本も含め多くの資本主義国が取っている国民主権というあり方,あるいは多種の民主主義というあり方は理想とは程遠く,ほとんどの場合が,国家のあり方はごく少数の人間達に委ねられているという当たり前のことかもしれない。
後半になると,現行の社会主義国家のあり方も踏まえながら,資本主義国家がいかに理想主義的でなく,現実主義的な理想的な民主的国家となりえるかということの考察に進み,段々私の理解の範疇を越えていく。しかしそれは,決して本書の内容が難解だということではなく,いかに私がものを知らないかということだ。ちなみに,現行の資本主義国家の多くが採用している代議制民主主義についても丁寧に批判がなされているので,この辺はもう一度改めて,知識を身につけてから読んでみたいところである。

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