« シェイクスピアと大英帝国の幕開け | トップページ | 映画館でマクドナルドのポテトは食べないでください »

雨のない七夕,梅雨明け

7月5日(日)

日曜日なのに早起きして出かける。日本人の監督が台湾の日本統治時代に育った老人たちにインタビューをするというドキュメンタリー映画をやっているので、観に行くことにする。すると、なんと到着した時には既に満席。地下の劇場のほかに、1階に特設会場を作っての上映会があるということで、そちらに入れてもらう。料金は同じです。

ポレポレ東中野 『台湾人生
私の恋人が台湾人ということで、私が台湾について語るのはとても難しい。この映画についてはそれなりに話題になっていて、後日読売新聞の記事を読んだ。この監督は別にドキュメンタリー作家を目指していた人ではなく、また長い間台湾に関っていた人でもない。たまたま訪れた台湾で現地の老人と日本語でコミュニケーションをとったのをきっかけに、何度か訪れるようになり、かれらの日本に対する想いを形に残そうとしたとのこと。上映前にはその酒井充子監督と、作品中でもインタビューを受けている一人の台湾人男性とが舞台挨拶を行った。監督の言葉はなく、おしゃべり好きのその男性が、日本政府には恨みもあるが、今の台湾はかつての日本による統治時代がなければ成り立たなかった、などと強く主張する。
さて、映画だが、基本的には日本統治時代に日本語を学んだ男女5人の人たちに対して、日本語で話を聴くという内容。基本的に太平洋戦争前の、大日本帝国によるアジア諸国への侵攻は、現在日本の負の記憶として捉えられている。今日でもアジア諸国の反日感情や、政治における靖国参拝とかいろいろありますが、台湾が比較的親日であるということはよくいわれる。本作もそんなことを裏付ける発言が多い。しかし、あくまでもこの作品は5人の台湾人の記憶とそれを背負った現在の生き方についての語りであるということを忘れずに観ることが重要だ。出演する人たちは高齢だが、比較的健康で、本当に生活に困っている様子もない。子宝に恵まれ、あるいは地域の人たちとうまくやって、多くの人たちに囲まれて生活している。なかには孫娘が日本語を勉強していて、彼女と日本語で会話をすることが楽しくてしょうがないという人もいる。まあ、ともかく、日本に対する思い入れの深い、台湾に住む人々のことをもっと知りたいという素朴な動機から映画を撮った一人の日本人女性による作品だということで、観ることが重要だ。

恋人は職場へ、この日は特に用事のない私はもう一本だけ映画を観て帰ることに。本当はシネマート新宿で『私は猫ストーカー』を観たかったのだが、立ち見ということで、こちらも満席を覚悟しなくてはいけないバルト9へ。

新宿バルト9 『剱岳 点の記
残席のマークが△になっていたが、なんとか最前列の中央席をゲット。結局最前列まで満席になりました。この映画は地理学者にはなかなか興味深い素材です。時期は精確には忘れてしまいましたが、日本が軍国国家への道を突き進もうという時期、現在の国土地理院は国土交通省の一機関ですが、当時の陸地測量部は陸軍のなかにあった時代。国土を知ることと戦争とは大きな関係がありました。地理が歴史と同様に、早い時点から小学校の科目に加えられていたのは、子どもたちを愛国心を持った国民へと育てていくのに必要であったから。地理学はいつの時代も戦争、あるいは国家政治と関係が深いのです。もう一つ面白いのは、当時の日本で唯一人間の登頂を拒んできたという劔岳。もちろん陸地測量部は、日本地図の空白地帯を埋めるための測量部隊を登頂させることが目的なのだが、この頃日本にもレジャーとしての登山が輸入される。そして設立された日本山岳会のメンバーがやはり前人未到の地への登頂を目論んでいたのだ。陸軍の威厳にかけて、という勝負が映画的な盛り上がりを演出する。
ところで、この日本におけるレジャーとしての登山、すなわちアルピニズムの普及に貢献したのは地理学者である志賀重昂の『日本風景論』という著作。この著作に関する地理学者の研究もあるが、この本はオリジナルというより外国の著書の翻訳編集という類のもの。もちろん、陸地測量部の登山隊長を演じる浅野忠信が本書を読むシーンもある。そして、日本山岳会の劔岳登山チームの長は仲村トオル演じる小島烏水も地理学者にはよく知られた人物だ。私は人文地理学者だが、大学・大学院時代の知人には山の研究をしている人もいたし、氷河の研究者もいた。だから、実際に俳優たちが登りながら撮影したという剱岳の風景はなかなか面白く見ることができた。まあ、俳優たちの苦労とその達成感はいわずもがな。特に私が心惹かれたのは宮﨑あおいの存在だ。ちょっと浅野忠信の妻役ってのは無理があるんじゃないの?と思ったけど、当時の夫婦関係ということもあって、いわゆる現代的な恋愛関係の振る舞いってのはない分、不自然さは軽減されている。もちろん、基本的に浅野は山岳地域に行っていて、妻であるあおいちゃんとのシーンよりも案内役の香川照之とのシーンが圧倒的に多い。しかし、そのちょこっとのシーンがたまらないのだ。愛らしい妻のしぐさと表情。これまでスクリーン上のあおいちゃんに性的な魅力を感じたことはなかったが、この時は抱きしめたくなりましたね。大人の女性になりました。でも、せっかくだから香川照之の妻を演じていた鈴木砂羽さんとの手紙のやり取りについてもうちょっと取り上げてもよかったかも。ラストは史実にどれだけ基づくか分かりませんが、映画的にはいい結末でしたね。


7月7日(火)

池袋明日館講堂
七夕のこの日、梅雨ながらなかなかいい天気で、素敵な場所でコンサートです。以前にこの場所で定期的に演奏していた潮音ちゃんが初対面の小谷美紗子さんをお招きしての2人のコンサート。
小谷美紗子:小谷さんのライヴは以前Salyuと2組で出た恵比寿リキッドルーム以来、2回目。あの時はスタンディングでギュウギュウだったので、小さな小谷さんの姿はほとんど拝見できず。その時はガッツリトリオでの演奏でした。今回は全く一人ピアノ弾き語り。一人しっとりという以上にMCでも少し変です。後で分かったことでしたが、彼女はこの七夕の日に、こういう場所で演奏できるという幸せを深くかみ締めながらの演奏だったということです。昼間、自宅で歌いながらも涙が溢れるという感情のまま本番に臨み、涙をこらえながらのMCだったのでしょうか。小さな体で力強くピアノを弾き、迫力のある歌声を聴かせてくれました。本人もとても気持ちよかったようです。
湯川潮音:そんなステージを目の当たりにしたせいでしょうか。潮音ちゃんもギター1本で弾き語りだったのですが、初っ端からテンションが高いです。こんな状態の彼女を観るのはなかなかありません。選曲は特筆するほどのものではありませんが、とにかく迫力がすごかった。2組で出演時間が限られているというのもありますが、なかなか貴重なコンサートだったと思います。
終演はちょうど21時過ぎで、私はこれ以上音を出せないのは知っていましたが、お客さんは1人も立たず、拍手が鳴り続けます。当然、アンコールはできないので、少し経ってから2人がステージ上に出てきて挨拶。よい演奏を聴いてアンコールを執拗に求める気持ちも分かりますが、見事に終わったものについては、そこに余計なものを追加させずに潔く終わりにするという心意気も覚えて欲しい。

|

« シェイクスピアと大英帝国の幕開け | トップページ | 映画館でマクドナルドのポテトは食べないでください »

日記・コラム・つぶやき」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/218863/45640427

この記事へのトラックバック一覧です: 雨のない七夕,梅雨明け:

« シェイクスピアと大英帝国の幕開け | トップページ | 映画館でマクドナルドのポテトは食べないでください »