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エコロジーの社会理論

二クラス・ルーマン著,土方 昭訳 1987. 『エコロジーの社会理論』新泉社,266p.,1800円.

ルーマンはあまり真面目に読む気はないが,『メディアのリアリティ』だけは読んでおこうと思っているが,たまたま本書を古書店で見かけたので,購入した。1986年の時点でエコロジーを論じているのも重要だし,「訳者あとがき」をさらっと読んだら,どうやら本書はルーマン社会学のエッセンスが詰まったような,入門書的なものだというので読む気になった。本書は最近『エコロジーのコミュニケーション』というタイトルで改訳版が出ていて,このタイトルの方が原題の直訳だが,私はこの初版のタイトルの方が内容にあっていると思う。
本書は決して,現代の日本で多くの人が思い浮かべるような意味でのエコロジーについて論じているわけではない。ひとまず,目次を示してみるが,そこから分かるように,本書は社会全般について論じられていて,エコロジー問題に集中しているわけではないからだ。

序文
1 社会学的禁欲
2 原因と責任?
3 複雑性と進化
4 共鳴
5 観察に関する観察
6 社会的操作のコミュニケーション
7 エコロジーの知識と社会的コミュニケーション
8 バイナリーコード
9 コード,規範,プログラム
10 経済
11 法
12 学問
13 政治
14 宗教
15 教育
16 機能的分化
17 制限と強化――ごく僅かな反響ときわめて強い共鳴
18 代理と自己観察――「新しい社会運動」
19 不安,モラル,理論
20 エコロジー的コミュニケーションの合理性について
21 環境倫理

こんな感じで,各章はとても短く,10ページ足らずのものも多い。だというのに,各章のこの大きなテーマよ!確かに,いかにも入門書的な構成だ。中盤に,経済,法,学問,宗教,教育という社会を構成する一般的な時限の名称が並ぶ。ルーマン社会学を基礎付けているのは「社会システム論」だが,これらは社会という全体システムの下位システム,あるいは機能システムというものである。ルーマンのシステム論にも当然私は初めて触れたのだが,思いの他,独自なものというよりはきちんと自然科学における一般システム論も踏まえているようです。そして,当時流行りだった,オートポエーシスもきちんと取り込まれている。本書では「自己生産」という訳語だが。そうそう,本書は訳語の面,特にカタカナ表記が気になります。「パースペクティーフ」などと馴染みの英語もドイツ語読みをカナにするのはどうなのか?フランスの哲学者ミシェル・セールの『パラジット』に何度か言及があるが,彼の名前を「ミカエル・セレー」と表記するのはさすがにいかなるものかと思う。
さて,全体的にはシステム論に依拠している成果,論理が整然としていて分かりやすいような気もするが,やはりすっと頭のなかに入ってくる感じではない。1980年代中ごろに,「エコロジー」という言葉がどれだけ浸透していたかは分からないが,ウォーラーステインのいう「反システム運動」として,地球環境の危機を訴える社会運動が起こっていたことは確かだ。一昔前には日本のローカルな文脈でも盛んだった「公害運動」がグローバル化とともに運動の規模と目的が大きくなっていく。なので,本書における「エコロジー」ももちろんそうした自然環境という意味合いも含んでいるのは確かだが,ここではむしろ,社会システム論を発展させていくために,閉鎖システムと開放システムの関係,一つのシステムと他のシステムの関係,一つのシステムを構成する要素の範囲,そんな考察のなかで,当然これまではシステムの外部と思われていたものがシステムの重要な構成要素と認識される。そんなところに,「エコロジー」の言葉が利用されているように思う。そして,原著タイトルにもある「コミュニケーション」とは単なる人間主体間の意思伝達というものだけを意味するのではなく,システムの構成要素間のインプットとアウトプットのやりとりのことを意味しているのだろう。私の単純な読みが正しいのかどうかは分からないが,まあ,そんなところだと思う。最後にちょっと長いですが,一箇所だけ下線を引いた箇所の引用で締めくくろう。

観察とは区別することであり,また標記することであるならば,区別する能力においては評価すること,つまり区別を区別しようと申し出ることである。システムと周囲世界とのシステム論的区別は一貫して処理され,まさしくエコロジー的課題を目指している。そのシステム論的区別は再登録の概念の助けを得て,合理性の概念の定式化を許す。そのことでシステムが合理性を入手するのは,システムと周囲世界の差異をシステムのなかに再導入し,それに基づいて(それ自身の)同一性ではなく,差異性に方向をとる程度に相応しているのである。(p.202)

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