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都市社会のアウトサイダー

デービッド・シブレイ著,細井洋子監訳 1986. 『都市社会のアウトサイダー』新泉社,271p.,2900円.

最近でも,地理学者もよく寄稿する雑誌に文章を書いているシブレイ。社会学者と思っていましたが,訳者あとがきによると,出身は地理学なんですね。本書でも,テーマ的には『アウトサイダーズ』の著者,ハワード・ベッカーなどが引用されていてもおかしくないのだが,むしろハーヴェイやグレゴリー,バッティマー,ノックスなどの地理学者の文献を引いている。もちろん,だからといって地理学どっぷりというわけではなく,ギデンズやハーバーマス,ブルデュー,パーソンズ,セネット,人類学者のダグラスなどなど,幅広い。でも,例えば2003年に『人文地理』に掲載された原口 剛にはシブレイの1995年の著書『geographies of exclusion』が引用されているのに,本書がないってのはあまり知られていないのだろうか(かくいう私も最近まで知らずにいたので,偉そうにはいえませんが)。
そんな感じで幅広い文献に支えられた前半は総論編。正直いってあまり面白くないですね。最近の彼の文章は断片的にしか読んでいませんが,一般論は近年の方が洗練されているのかもしれません。本書の醍醐味はやはり経験的な事例に基づく後半。本書では「トラベリング・ピープル」と名づけられた,都市に住む移動する人々が「アウトサイダー」の一つの例として取り上げられます。本書には実はもう一つ事例があり,それがアラスカのイヌイットだが,ちょっと本書の文脈には強引なような気もする。本書によれば,著者は研究事例として捉える以前から英国の「トラベラー・ピープル」との付き合いがあったという。そういうの,いいですね。前回紹介した濱田君の研究もそうでしたが,私のライヴ通いもそのうちうまいこと研究になればと思う。
さて,この「トラベリング・ピープル」とはいわゆるジプシーを含む人々のことだが,それだけではないところが現代的というべきか。以前,地理学者仲間で翻訳をしていた『cool places』という論集のなかに「ニュー・エイジ・トラベラー」に関する研究があったが,本書のなかにもそういう人たちが入っているのだろうか。もうちょっと最近になれば,「ノマド」というような言い方で,場所に根付かない人のアイデンティティの問題というのも一つのテーマだ。でも,本書の場合,そういういわば反社会的というか,社会通念から外れる人々に対する社会における差別的な問題ばかり扱われがちなのに対し,そういう人々の経済的基盤に着目しているところが面白い。以前,同じ研究会に参加していた下村恭広君が,東京における廃棄物収集者(いわゆるきちんと働かない浮浪者たちが鉄くずなどを集めて換金する)の研究をしていたが,英国におけるトラベリング・ピープルの基幹産業もそういうものらしい。廃棄物というのは重量があり,移動が面倒であるが,ある場所で不要なものであっても他の場所では有用である場合がある。つまり,かれらはその移動性によって,その不要な物資を移動することによって余剰価値を生み出すという非常に面白い活動主体だといえる。そして,もちろんそれは非常に都市との密接な関係を有している。そして,それは近年の社会地理学研究でも重要なテーマであり続けているが,かれらの存在を疎ましく思う地域住民と,それを何とかしようとする行政,あるいは都市計画。そんなことが幅広く事例を集め,論じられている。
一方のイヌイットの事例についても,基本的にかれらの居住地は都市とはいえないのだが,いわば急速な都市化と近代化の波が,一昔前にはそれとは関係の薄かったかれらの生活にも否応なしに影響を及ぼすということが論じられる。そうした事例から,前半部では十分にその含意が引き出されていないように思うが,それは時代的な制約といえるかもしれない。ともかく,荒削りながらなかなかの名著だ。中途半端な翻訳もまたいい。彼の新しい文章も読みたくなった。

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