フォト・リテラシー
今橋映子 2008. 『フォト・リテラシー――報道写真と読む倫理』中央公論新社,256p.,780円.
書店の写真コーナーに行くと最近目に付く著者の名前。『〈パリ写真〉の世紀』や『ブラッサイ――パリの越境者』という分厚い著書の著者だ。本格的な写真研究からはちょっと遠ざかっているので,あまり厚い本は読む気がしなかったが,そんな著者が中公新書を出したので買ってみた。タイトルはイマイチだったが,目次を見たら,彼女の専門のパリ写真の話もあるみたいだし,私が研究した『The family of man』の話もあるという。
なぜ,私にとってタイトルがイマイチかというと,それは明らかに「メディア・リテラシー」からきているからだ。リテラシーとは「読み書き能力」のことで,有名なリチャード・ホガートの著書も『読み書き能力の効用』だったが,なんだか最近のカタカナ表記はどうにも上から目線,教育的な側面が強調されて気に入らない。でも,著者はこの言葉に批評的・批判的な意味合いも込めているというのでよしとしよう。この種の本としては,本書でも言及される,1963年に岩波書店から出版された,名取洋之助『写真の読み方』がある。名取は日本の写真史のなかでも重要な役割を果たした写真家であると同時に編集者であり,批評家というよりは実践家であり,一方で今橋氏は大学の研究者である。しかし,私から見れば,本書の一部分は『写真の読み方』の焼き直しである。また,これも本書で引用されているが,小林美香『写真を〈読む〉視点』(2005,青弓社)もある。小林氏の著書がどちらかというとアート写真に重心を置いているのに対し,今橋氏は報道写真に重心を置いている。が,その両者の境界は曖昧である,というのが2人の著者の共通認識であるかもしれない。
まあ,本書が私のような読者に対して根本的に認識に変更を迫るような刺激はなかったものの,私が知らない事実をいくつも提示してくれたことはありがたい。そう,本書は写真一般論ではあるのだが,その論証のために用いられる事例が限定されていて,それが故にその考察が詳細である,というのが新書でありながら本書が持つ魅力であろうか。それに加え,最終章で「倫理」というものを強調し,晩年のスーザン・ソンタグについて論じたり,同時代的に今日活躍する写真家であるセバスチャン・サルガドを登場させて,メッセージ性の強い写真が世界を変えるか否かという,なかなか研究者という立場では論じにくいテーマを含んでいるのが面白いと思う。
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