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ムーン・パレス

ポール・オースター著,柴田元幸訳 1994. 『ムーン・パレス』新潮社,443p.,705円.

何度か書いているように,私はポール・オースターにこだわっている。といいながら,ニューヨーク三部作以降の作品にイマイチ手が出せないでいた。しかし,外出先で持参した本が読み終わりそうで,書店で急遽購入したのがオースターの1989年の作品『ムーン・パレス』。手持ちのお金がなかったし,持っていたバッグの容量からしても大きな本は買えなかったというのが正直なところで,文庫版のオースター作品が未読のものはこれしかなかったという非常に消極的な理由。しかし,ニューヨーク三部作のほかに,『最後の物たちの国で』は読んでいたので,一応,長編小説はほぼ年代順に読むことになる。
『ムーン・パレス』はすでにそれに関する論文も読んでいたりしたし,前にも紹介したオースター読本のような本のなかで,本書の概要も読んでいた。全般的に,オースターに限らず,初期には哲学的・抽象的な作品を描く人でも段々ストーリー重視の具象的な作品になりがちだ。オースターもそうだということを知っていたから,とりあえず私のオースター研究書が一段落するまでは,読まないようにとは思っていたのだが,普通に面白かった。
主人公はマーコという名前だが,作品中でもマルコ・ポーロと関連付けられる。そして,彼が通うのはコロンビア大学で,作者のオースターと同じ。マルコ・ポーロ『東方見聞録』における「黄金の国ジパング」を目指したコロンブスがカリブ海に浮かぶ島を発見したわけだが,そのコロンブスにちなんだ名前の大学。まあ,そんな言葉遊びが作品中に多用されるのはオースターらしい。そして,主人公が落ちるところまで落ちるという設定も大好きだな。そして,オースターお気に入りの社会的事実は「偶然」だが,本作における偶然はちょっと度が過ぎているようにも思う。とはいいつつも,そして本書がかなり自伝的な内容を含むといえども,これだけの発想で,それを作品として結実させていくのはさすがだ。
オースターはこの後,映画製作に関わっていく。本作もストーリー展開的には映画化されてもおかしくない内容ではあるが,やはりされないんでしょう。やはり小説には小説の面白さというのがあるというのを実感する作品。

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