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Place: a short introduction

Tim Cresswell 2004. Place: a short introduction. Blackwell, Oxford, 153p.

ティム・クレスウェルは地理学者。1996年の著書『In place / out of place』で有名だが,はじめから「place=場所」という概念にこだわっている。というのも,彼は1990年代に盛り上がってきた「新しい文化地理学」の流れにいながらにして,かれらが批判の対象としていたトゥアンの教えを直接に受けていた人物だからである。1970年代に『トポフィリア(場所愛)』および『空間と場所』によって「場所」という概念を地理学のなかで復活させたのがトゥアン。もう一人,場所の復権の立役者としてレルフという人物がいるが,1980年代には主にマルクス主義の立場からトゥアンやレルフのような人文主義地理学は批判にさらされた。そして,1990年の『the power of place』という論文集で,その批判的な立場からの論考が収録された「場所」を関した著書が数多く出版される。しかし,それらの多くは場所の概念について議論するものではない。私は1997年に「A note on the concept of place」という論文を所属していた教室が発行している紀要にかかせてもらったが,その時にplaceを関する著書にいくつか目を通したものの,実際に場所概念自体に関して議論しているものはほとんどなく愕然としたものだ。つまり,場所概念を使いたがる多くの地理学者は単に便利だから使っていたにすぎない。まあ,その後著名な地理学者であるハーヴェイとマッシーが場所の概念化を行い,事態は多少変わっていくが,ずーっと一貫して場所について議論してきたのはこのクレスウェルであるといってよい。そんな彼の論文も,1本だけ日本語に翻訳されている。

ティム・クレスウェル著,日比野 啓訳 2004. ナイト・ディスコース――ストリートにおける意味の生産と消費.10+1 34: 137-148.

なので,彼の論文はけっこう好んで読んできた。『In place / out of place』のもとになる論文をいくつも読んでしまったから,この本自体は買っていないくらいだ。しかし,1997年の論文を読んで以来,私が大学を出てしまったこともあるし,彼の研究をフォローすることはなくなってしまったのだが,最近発表された福田珠己さんの論文に本書が文献リストにあり,出版から既に5年が経過していたけどAmazonで早速購入し,ほどなくして読み始めた。「Short introduction to Geography」のシリーズということで,確かに読みやすく,辞書なしで読んだけどあまり困らなかったし,1週間弱で読み終えることができた。さて,内容は以下のような5部構成。

1. はじめに:場所を定義する
2. 場所の系譜学
3. 「グローバルな場所感覚」を読む
4. 場所とともに研究する
5. 場所に関する研究資源

序章は14ページととても短く,2章を先取りするような内容ではあるが,より一般的な議論として,関係する概念との関係について論じている。関係する概念とは,空間や景観である。2章はすでに書いてしまったが,地域地理学から始まり,1970年代のトゥアン流の現象学に基礎を置く場所論,マルクス主義地理学における場所の政治学,場所の社会的構築などの系譜が語られる。そういえば,「場所の系譜学」という表現は同世代の地理学者である加藤政洋君も使っているが,その意味合いはかなり違う。
さて,3章だが,「グローバルな場所感覚」とは1991年に初めて発表されたドリーン・マッシーの論文である。これと類似した論文として,1993年の論文があるが,これはその加藤政洋君によって翻訳されている。

ドリーン・マッシー著,加藤政洋訳 2002. 権力の幾何学と進歩的な場所感覚.思想 933: 32-44.

この論文は『Mapping the future』という論文集に掲載されたのだが,この論文集にはハーヴェイも『ポストモダニティの条件』(翻訳1999年,青木書店)以降の場所論が掲載されている。これも翻訳がある。

デイヴィッド・ハーヴェイ著,加藤茂生訳 1997. 空間から場所へ,そして場所から空間へ――ポストモダニティの条件についての考察.10+1 11: 85-104.

このハーヴェイの議論を読んだとき,確かに同様のことはジャクリン・バージェスという地理学者も論じていたが,巨視的な視点のなせる業だと妙に納得した。しかし,それに対して上のマッシーはハーヴェイ批判としての場所論を展開するのだ。それにも妙に納得したりして。まあ,そんな論証を詳細に紹介するのが3章。マッシーの文章は8ページにわたってほぼ前文掲載し,ハーヴェイのも12箇所にわたって引用している。まあ,クレスウェルの結論としては,マッシーのハーヴェイ批判の後のメイという地理学者の詳細な実証研究に基づく議論を紹介して,どれも正しく,場所というものを一義的に捉えることはできないということになりそうだ。そもそも,ハーヴェイもマッシーも自らが生活の場を事例に論を展開しているので,それぞれの場所の性質によって,そこから導かれる一般的含意も異なるのは当然という感じ。まあ,私的にも分からないでもないですが,ちょっと物足りない感じ。
続いての4章は,ビッグネームによるそんな論争以降にさまざまに展開している研究の紹介。しかし,正直いって4章の前半はイマイチ論点がつかめない。読みどころは後半だ。自らのかつての著書のタイトルを使った「In Place/Out-of-Place: Anachornism」という部分,Anachronismといえば,時代錯誤のことだが,時間を意味する「chro」を空間を意味する「chor」に換えているところが味噌で,つまりout of place=居心地の悪さを「空間錯誤」と表現するのだ。そこで,中心的な議論が「ホームレス」をめぐるもの。ホームレスをめぐる研究が地理学でなされていることは知っていたけど,それを場所概念と結びつけた議論がなかなか魅力的。homeという概念は場所の概念に安定性とか共同性とかというイデオロギーを付与するのに役立っているわけだが,まさにhomelessという言葉そのものに,人間は所属すべき家=場所が必要不可欠であるという前提が込められているということになる。多くの事例は英国から取られていますが,もちろんホームレスに関しては日本でも論じるべきことは多い。
5章は著書や文献,さらなる研究トピックの紹介。最近,私は新しく教科書として使える本を考えているが,やはりこの本も地理学専攻の学生ならともかく,非常勤先では使えそうもない。まあ,残念だ。

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