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世界を見せた明治の写真帖

三木理史 2007. 『世界を見せた明治の写真帖』ナカニシヤ出版,189p.,1900円.

ナカニシヤ出版が出しているシリーズの10冊目。私が読むのは,村山朝子『『ニルス』に学ぶ地理教育』,関戸明子『近代ツーリズムと温泉』に続いて3冊目。第一印象はこれまで読んだ2冊と同様に,タイトルが適切でなく,ちょっと大袈裟だということ。著者の三木氏は1965年生まれの中堅地理学者。交通史という独自の路線を地道に突き進んでいる。これだけ継続的に研究を発表し続けている地理学者はそういない。しかし,研究テーマからして私はきちんと彼の文章を読んだことはない。しかし,そんな彼がこんなテーマを取り上げるのはかなり突飛な気がして,写真研究をしている身としては,読まずにはいられなくなった。そんな事情については「あとがき」に詳しい。当初,彼に依頼されたこの叢書のテーマは「世界鉄道としてのシベリア鉄道」であった。この叢書のタイトルが「地球発見」だから,これまでのような「日本の鉄道史」では駄目である。ということで,企画者が望んだのは日本以外の鉄道の話だったが,結果的には日本国内で世界に関する史料を扱うものだった。
確かに,本書が提示するものは貴重だ。まず,古地図に対して古写真の地理学研究の不足。石井 實のいう「地理写真」を歴史的な次元に拡張すること。そして,恐らく私のものも含めた地理学における近年の写真研究がその図像にのみ限定されていること。そうした,これまでの研究の批判の上に,彼の研究が位置づけられる。しかし,最後の点に関しては,そうした近年の研究を芸術写真の図像学的研究と単純化して批判しているのは,具体的な研究を挙げていないことからも明白。ローズの写真研究などは複雑な内容を持っているのに。なので,彼の研究の位置づけに関してはあまり評価はできないのだが,彼の集めた史料はとても豊富である。しかも,その史料収集から分かった事実も2つほどあり,それは本書の大きな成果である。その一つは,明治末期に世界一周旅行をした日本人観光客のなかから,世界写真帖を出版する人物が現れたのだが,その写真帖とはなんと,旅行中に各地で買い集めた絵葉書から作っていたと思われる,という事実は面白い発見である。また,著者が日本全国でその所在を確認している「府県写真帖」とは,やはりこれも作成の中心人物がいるのだが,皇族による日本各地への行幸の際に,彼らに謹呈するために作成されたものだという。この辺りに詳しい,フジタニ『天皇のページェント』にもこの事実は書かれていなかったと思うから,膨大に収集された写真帖とともに,大きな成果だと思う。
確かに,調べてきたことが緩やかに結びついて,それらをまるごと1冊の本で紹介したくなる気持ちも分からないでもない。しかし,明らかに本書には史実を詰め込みすぎだ。読者にはそれが消化できない。それどころか,恐らく著者にも消化できていないと思う。それを何とか消化しようと,私でも読んでいないような日本の写真史の文献を読み漁った努力は評価すべきである。個人的には,上に挙げた成果のどちらか一つに限定して論を展開した方がすっきりして,また議論も深められたと思う。せっかく36ページを費やして掲載している府県写真帖は,本文での扱いの少なさで,その史料価値を低めていると思う。まあ,ともかく本書は新しい方向性に導かれようとする著者の覚書だと思っていいのではないか。著者自身が膨大に集まってきた史料をひとまず整理しているもの。まあ,これが公的な場に発表されたことで,著者以外にもこの分野の研究が可能となるし,そういう価値はあると思う。

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