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天体論・生成消滅論

アリストテレス著,村治能就・戸塚七郎訳 1968. 『アリストテレス全集4 天体論 生成消滅論』岩波書店,424p.,2600円.

アリストテレス全集は3巻の『自然学』に続いて2冊目。この手の大きくて厚い本は外出先には持っていかず,もっぱら家のなかで読む。といっても,自宅にいる時に読書の時間をわざわざ設けないから,せいぜい歯を磨いている時と,長時間トイレにこもる時くらい。そんな時間でも1日5ページほどすすめば数ヶ月で読み終わるものです。
意外にもまだ2冊目でしたが,アリストテレスは面白い。西洋の人文・社会学者にとって,聖書やプラトン,アリストテレスは必読書だと思うけど,日本ではどうなのだろうか。少なくとも人文地理学者できちんと読んでいる人は多くないと思う。私は場所研究の一環として,プラトンの『ティマイオス』とアリストテレスの『自然学』を読んだわけだが,その魅力に惹かれ,生涯のうちでせめて日本語の全集は読破したいと思うようになった。しかも,それは読破が目的なのではなく,面白いのだ。焦って全部読むよりも,人生の楽しみとして大事に少しずつ読んでいきたいと思う。
そんな感じで長きにわたって読んでいたし,天体論を読み終わって,別の本を1冊挟んだこともあって,天体論はあまり覚えていない。でも,いわゆるルネッサンス期以降の天文学,ガリレオやケプラー,ニュートンらのものを想像するとずいぶん違う。アリストテレスの学問にキリスト教の影響,具体的には聖書の記述に縛られるようなことは意外にも少ないが,星というのは神が創造した万物の一種であるという認識が前提になっている。『自然学』では物体の運動を,前後左右上下に加え,円環運動という7種を提示している。そして,天体という存在は自ら自発的に運動するという意味で,動物の一種と考えられているのだ。そして,地球上の物体の多くが前後左右上下の6種の運動を行うのに対し,天体こそが7つめの円環運動を行う典型的な存在だといえる。なので,具体的な惑星の記述などはほとんどなく,運動の話や,そして宇宙空間を充填している物質,すなわちエーテルについての議論,そして宇宙がどんな物質から成っているのか,そして宇宙は有限なのか,無限なのか,という『自然学』でも論じられていた問題をより掘り下げている印象。宇宙がどんな物質からなっているのかということについては次の「生成消滅論」の主要なテーマでもあるが,基本的に長らく四大要素説というのが有力であった。宇宙は,火・土・空気・水から成っているのだという。そして,第五の要素(フィフス・エレメント!)としてプラトンが提示したのがエーテルというもの。論証の仕方は相変わらず,先人の諸説を一つ一つ検討しながら,正しいもの誤っているものを選別し,自らの主張を固めていく。そこで結論付けられるのは,無限は存在しないということ,天界=宇宙は一つであること,第五の要素が存在すること,天界は生成も消滅もしないということ,天界が球形であること,諸星も球形であること,大地(地球)が球形であると同時に天界の中心にあること,などなど。すっかり忘れていましたが,後半には「月下の物体について」というタイトルで随分ページを割いていました。
さて,最近読んだのが「生成消滅論」。個人的に関心があったのはこちら。16世紀末のブルーノによる『原因・原理・一者について』のように,物体を一つと数えるのか,という形而上学的な問題を考えさせることは現代ではあまり多くない。といっても,私がこの問題に関心を持ったのはジジェクの『為すところを知らざればなり』だが。ともかく,万物は神が創造した,という教義のもとでも物質は変化するし,動植物の個体は命を失い,そしてまた誕生する。このことをどう理解するか,ということは自然学の大きなテーマであり,本書を読んで,このテーマは『自然学』だけでなく,『形而上学』でも論じられているものだと知る。ところで,四大要素とは私たちが化学で習うような原子とは異なる。水は火を与えられて空気になるように,それぞれの要素間には相互に入れ代わりがある。アリストテレスの場合,それをうまく説明するのが,乾-湿,と温-冷の2つの軸だ。水は冷たくて湿っている,火は温かくて湿っている,空気は温かくて乾いている,土は冷たくて湿っている。この議論は『自然学』にもあったが,要素間の移行についてここではさらに詳しく説明されている。神が創造した万物は増えたり減ったりしないというのが基本的な彼の考えだが,ある意味では質量保存則にもつながるのだろうか。
ともかく,すでに購入済みの『気象論・宇宙論』といった自然学関連だけではなく,『形而上学』の他もさらに読みたくなった次第である。

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