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アーバン・ツーリズム

クリストファー・ロー著,内藤嘉昭訳 1997. 『アーバン・ツーリズム』近代文芸社,328p.,3800円.

訳者の内藤氏は,長い間けっこう謎の存在だった。私が地理学学会誌に書評を書き出した頃,やはり彼も書評を書き出した。彼が書くのは決まって観光関係の英語の本。なので,日本語は受け付けていないが故に,年に1,2本出ればいい『人文地理』の「文献改題」にも書いていた記憶がある。しかし,彼は自身のオリジナル論文は決して掲載しない。会ったことがなくても,出身大学や指導教官が分からなくても,オリジナルの論文が1本でもあれば,どんな研究関心があって,どんな本を読んでいるのかというのが分かるが,書評だけではどうも。私も関心を持っている観光を取り上げているとはいえ,最近では書評でもあまり登場しなくなったので,彼に対する関心も薄れてしまった。
そんななかで,ここでも紹介した神田孝治編『観光の空間』でも,やはり彼の業績はそれほど多く取り上げられるわけでもなかったが,いくつか彼の翻訳書を取り上げた人もいて,再び関心を持った。早速,Amazonで検索すると,結構出てきました。翻訳書だけではなく,オリジナルの研究書も数冊発表していました。しかも,地理学学会誌に書評を書き出した頃の1990年代からです。本書をマーケットプレイス(中古品です)で購入するついでに,新刊で彼の『富士北麓観光開発史研究』(学文社,2002)という比較的最近の本を購入してみた。そちらについては今後読んでまた紹介するとして,とりあえず『アーバン・ツーリズム』から。ちなみに,内藤氏は1958年の生まれで,一度山梨県庁や外務省にも勤めた後に,桜美林大学の大学院に入りなおしたという人物。でも,専攻は地理学ではなく国際学研究科とのこと。
本書は原著が1993年に出版されたもので,著者は英国マンチェスターのサルフォード大学の地理学講師とのこと。日本の地理学会では,けっこう外国の地理学研究は名前で評価する傾向にあるので,こうした日本ではほとんど無名の地理学者の本の日本語訳が,しかも地理学とは関わりの薄い出版社から出版されるというのは,この謎の人物,内藤氏の素晴らしい業績だろう。さて,さっそく目次を示しておこう。

第1章 はじめに
第2章 都市の現況
第3章 都市観光戦略
第4章 コンファレンスと展示会
第5章 都市アトラクション
第6章 文化,スポーツ,特別イベント
第7章 二次的要素:ホテル,ショッピング,イブニング・アクティビティ
第8章 環境と計画
第9章 組織と資金
第10章 都市における観光の影響評価
第11章 総括,問題点並びに今後の展望

この目次からも分かるかもしれないが,いかにも地理学者らしい面白みに欠ける本だ。非常に網羅的で羅列的。私が代官山の論文を初めて掲載してもらったのも1993年だが,観光という方向性に非常に関心があったものの,自分の研究が都市観光(アーバン・ツーリズム)研究になりえるということは全く考えていなかった。1996年に発表した『Hanako』論文では観光研究論文を何本か引用しながら,枠組みを借りたが,やはり大々的に観光研究を表に出すのははばかれた。当時,確かに日本の地理学でも滝波章弘氏という魅力的な都市観光研究者が出てきていたのではあるが,都市を観光の側面から論じるという視点は弱かったように思う。
著者によれば,1993年の時点で英語圏においてもどうようだったらしい。一過性の訪問先として都市に引き寄せられるアトラクションは本書の各章に挙げられるような,文化・芸術であり,ショッピングであり,ナイトライフである。そしてそうした余暇だけでなく,ビジネスでの集客も都市にとっては重要で,そのアトラクションがコンファレンスと展示会だという,著者の主張はいたって正しい。よって,都市観光研究を始める上で,本書は非常に良い入門書となるわけだが,あくまでも前提条件としての知識と認識を与えてくれるだけで,読書としての刺激は極めで低いものであった。斜め読みってのはほとんどしない私だが,後半は耐えかねてしてしまった。訳者の努力を思うとそれほど失礼なことはないのだが,斜め読みでもほとんで重要なところを逃さずに読めるので仕方がありません。
内藤氏のオリジナル研究がどんなものか,楽しみにすることとしましょう。

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コメント

ご無沙汰してます
謎の人物,内藤嘉昭さん。謎の人物(笑)私も気になって,同じようにamazonで調べました!原著本の目次から興味・関心の対象はボヤっとしてますが,おそらく「場所に創られかた」みたいなことに興味があるのですかね(^^;)私もオリジナル研究がどんなものか楽しみに待ちたいと思います。
 あと地理科学に掲載された「レジャーの空間」の書評,楽しく読ませていただきました!生意気ながら本当の意味での書「評」とは,こういうものだと思います。須藤論文「1.考えてみよう・・・」以降が課題としてはちょっと難しいと指摘されましたが,確かに一般読者には難しいですが,関西学院の学部時代には,基礎ゼミや講義などを通じて似たようなことが問いかけられてました。もっといろんな大学の「観光地理学」みたいな冠の講義や演習で,当たり前のように問いかけが行われれば,おもしろみのある地理学のすそ野が広がるのかなぁ~なんて思ったりもします。
長文すいません。。。
ではでは,またお会いできる日まで!

投稿: ヨシダクニミツ@つくば | 2010年3月17日 (水) 15時43分

ヨシダ君

お,ついに書き込みありがとう。
そして,『レジャーの空間』の書評も読んでくれてありがとう。
ちなみに,『観光の空間』も最新の『地理学評論』に掲載されます。それにしても,今度の学会のプログラムも載るというのに発行が遅れていますね。そして,今度の学会では土曜日の朝一9時から発表するので,是非聴きに来てください。

ちなみに,「課題が難しい」という批判は,読者任せにするのではなく本文に書いたほうがいいのではという意味合いです。
では,また。

投稿: ナルセ | 2010年3月17日 (水) 21時21分

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