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近代日本の視覚的経験

中西僚太郎・関戸明子編 2008. 『近代日本の視覚的経験――絵地図と古写真の世界』ナカニシヤ出版,195p.,2600円.

またまたナカニシヤ出版。この出版社は地理学専門ではないが,さすがに古書店で見つける類の本ではないので,滅多に新刊で買わない私だが,ネット注文で買ったりしている。
本書は地理学者による研究グループの成果である。近代日本を研究している歴史地理学者たちが集まったもので,私が大学院にいた頃は,同じ大学で助手をしていた著者の一人である山根 拓氏が積極的に研究会を開催していて,同大学で開催される研究発表会には私も何度か参加したことがあった。それが,学会の研究グループとして継続していったり,個々人が国の科学研究費に応募して補助金を受けたり,民間の研究助成をもらったりで,もう10年以上活動をつけていて,しかもこうして成果が出版物として世に出るのは素晴らしい。しかも,この研究会の成果は既に私も紹介したが,ナカニシヤ出版から,「地球発見叢書」として,関戸氏と三木氏の短著が発表されている。今回は全章について詳しく詳細はしないが,目次だけは示しておこう。

第1章 描かれた植民都市――近代札幌の「風景」 山田志乃布
コラム1 地域情報の記録と風景画 山田志乃布
第2章 近代地方都市図の展開――富山・金沢の民間地図 山根 拓
コラム2 奈良絵図屋にみる地図出版の近世・近代 三木理史
第3章 熱海温泉の鳥瞰図の特徴と表現内容 関戸明子
第4章 明治・大正期の松島を描いた鳥瞰図 中西僚太郎
コラム3 瀬戸内海遊覧地図 齋藤枝里子
第5章 明治43年の群馬県主催連合共進会と前橋市真景図 関戸明子
第6章 昭和初期の千葉市街を描いた鳥瞰図 中西僚太郎
コラム4 吉田初三郎の鳥瞰図 関戸明子
第7章 大正・昭和前期の職業別明細図――「東京交通社」による全国市街図作成プロジェクト 河野敬一
コラム5 ゼンリンの住宅地図 河野敬一
第8章 地誌と写真帖 三木理史
コラム6 旅の視覚的経験と絵葉書 中西僚太郎
第9章 リーフレットからみる満州ツーリズム 荒山正彦
コラム7 日本旅行地図 荒山正彦

ちなみに,本書の副題に「古写真」とあるが,大々的に写真を扱ったのは,三木氏の第8章のみ。ただ,今回は民間で作られた地図や鳥瞰図,あるいは観光リーフレットを扱っているため,その裏面などに建物や観光名所の写真が掲載されている場合が多かった,ということが副題に「古写真」を含めることになった所以であろうか。
前半は鳥瞰図の話が多い。私は鳥瞰図の歴史には興味があるのだが,近代日本のものとなるとどうしても,歴史的な経緯や貴重な史料の解説に終始してしまい,どうにも思い切った図像解釈まで踏み込めていないところが不満である。本書で初めて「真景図」というものを知ったのはよかったが,それ以外はさほど刺激的ではない。しかし,第6章が実はかなり面白い。分析の手法は素朴なのだが,これはテクスト分析だといえる。それから,第5章は吉見俊哉の名著『博覧会の政治学』(中公新書)を補足するような詳細な研究で,素晴らしいと思う。第8章は上でもちょっと書いた,彼の単著『世界を見せた明治の写真帖』を補足するような形で,文献研究の成果が盛り込まれているが,ちょっと消化不足が否めない。第7章は続くコラム5でわたしたちには身近な住宅地図の前史が示されていて,面白い。そして,第9章。荒山氏は満州ツーリズム研究を1999年に発表した論文で始めたが,なかなか続編がなく,『レジャーの空間』の書評ではひどく批判してしまったが,本書のなかで,まさに私が期待していたような,詳細なテクスト分析が行われていた。さすがに,同時期に同じ出版社からでる違う本に同じテーマで質の高い文章を両方書くのは難しいよな。そういった意味では,コラム3の齋藤氏にもひどいことをしてしまった。こちらも,『観光の空間』の書評で,読むべき文献を指摘したのだが,それは本書できちんと言及されていた。
まあ,ともかく大判でカラーの図版も巻頭につけられた本書は,読んでいてとても楽しいものに仕上がっていると思う。私もそのうちこんな素敵な本を編集できたらと思う。

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