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ドイツ・イデオロギー

マルクス/エンゲルス著,廣松 渉編訳・小林昌人補訳 2002. 『新編輯版 ドイツ・イデオロギー』岩波書店,315p.,800円.

私は自らの研究の最も重要なテーマの一つにイデオロギーを据えながらも,イデオロギー研究の出発点ともいえる『ドイツ・イデオロギー』を読んでいなかった。そもそも,マルクスの著自体,『共産主義者宣言』(太田出版),『哲学の貧困』(岩波文庫)に続いて,3冊目にすぎない。だから,そもそもマルクスの人生において,本書がどの辺に位置づくかも知らなかったし,そもそも,本書がエンゲルスとの共著ということすら知らなかったのだ。
そんな浅はかな私だから,ともかく新しい版の方がよいと思って,この岩波文庫版を古書店で見つけて購入したわけだが,内容以前にもいろいろ考えさせられる本であった。まず,『ドイツ・イデオロギー』はマルクスの生前には出版されなかったということ。だから故に,未完のままであり,その構成および構想も決定しないまま残されたようだ。なので,さまざまに出版されている『ドイツ・イデオロギー』は少なからず編集者の解釈を含んだものであるらしい。そんなことから日本のマルクス研究者である廣松 渉氏が1974年に河出書房からドイツ語の原語と併記して出版したということだ。それは『ドイツ・イデオロギー』を初めて読む人のためのものというよりは,マルクス研究者のための文献学的な成果ともいえるものだったようだ。それがその後,他の訳者による版も有している岩波文庫として出版される計画があったが,その後廣松氏が亡くなってしまい,その後の作業を小林氏が引き継いだとのこと。
ということで,本書にはドイツ語は併記されていないが,マルクスとエンゲルスの手書き原稿と丁寧につき合わせて日本語化したのが本書。エンゲルスの原稿は明朝体で,マルクスの原稿はゴシック体で,それぞれの草稿に対して各々が書き入れた補足文や削除箇所,訂正なども何種類かのボールド体を使って区別され,さらにさまざまな注から成り立っている。正直いって,私のような読者にはとても読みにくいが,この2人の努力を思うとありがたく,丁寧に読むしかない。そして,本書には数枚の手書き原稿の写真が印刷されているが,これがとても面白い。といっても,文字が読めるはずはないのだが,面白いのは文字ではなくイラスト。
さて,本書から学ぶことは大きかった。といっても,いわゆるドイツ観念論批判は前半に集中していて,後半はイデオロギーとはほとんど関係ない,歴史的記述に移行する。そういえば,『共産主義者宣言』を読んだときもそうだったなと思い出す。さて,私は10年以上前から「唯物論」とは何か,ということを時折考えている。地理的表象を研究している私の立場は大雑把にいえば観念論的である。しかし,よって立つ立場からいえば「文化唯物論」を参照すべきなのだ。しかし,いまだにウィリアムズをきちんと読んでいないし,唯物論について書かれた本からもどうも納得したものはない。ちなみに,本書でよく出てくるフォイエルバッハの『唯心論と唯物論』も実は読んだことがあったのだ。しかし,マルクスとエンゲルのフォイエルバッハに対する評価も一筋縄ではなく難しい。
ちなみに,現在の地理学では20年前に流行った表象研究の行き過ぎに対して,「物質」なるものの復権が叫ばれている。しかし,そこでいうところの「物質」とは何を示しているのか判然とせず,どうにもこの種の議論には違和感を抱いていたのだが,それについては本書を読んですっきりとした。本書において「物質」という言葉はよく出てくるが,それは自然科学が対象とするような物質ではない。物質的交通と精神的交通(ここでいう交通とは関係性やコミュニケーションのこと),物質的労働と精神的労働などといった対比で用いられ,経済活動こそが社会編成の基礎だという。ここに,有名な土台-上部構造の理論も垣間見れるし,精神というものが社会的な生産物であるという今日的議論も登場する。そして,極めつけが「われわれはただ一つの学,歴史の学しか知らない」(p.24)というエンゲルスの言葉こそ,まさしくマルクス主義的な立場であり,だからこそ本書の前半で歴史と乖離した観念学を批判し,後半で自ら歴史記述を実践した,といえるのだろうか。

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