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日本風景論

志賀重昂著,近藤信行校訂 1995. 『日本風景論』岩波書店.

志賀重昂(1863-1927)が1894(明治27)年に出版したのが本書。1989年に『地理学評論』に掲載された荒山正彦さんの論文によってその存在を知る。そういえば,その論文が面白くて,大学院に入りたての私は,生意気にも掲載されたばかりの自分の論文への感想を要求する形で,著者本人に感想文を送りつけた。とても丁寧な返信をもらって,それ以来手紙や年賀状のやり取りをさせていただいている。
そんなことで,もう15年以上も読むべき本を位置づけながらも読まずにいた。私が購入した岩波文庫版には小島烏水による解説文が掲載されているのだが,昨年の映画『剣岳 点の記』で小島烏水を仲村トオルが演じてから,また本書のことを思い出し,今年度法政大学の「地理学」で景観をテーマに話をしているため,1回分を本書にあてようと考え,急いで購入した次第。『日本風景論』は講談社学術文庫版も出ているのだが,新刊ではどこの書店でも置いていなく,急いでAmazonで購入した。たまたま,プライム会員といって,注文当日に発送してくれるというサービスが無料体験をやっていて,本当に注文した日に届けてくれた。
本書を買いにいった新宿のジュンク堂で,本書がなかった代わりに購入したのが,大室幹雄 『志賀重昴『日本風景論』精読』。先んじて,ここに書かれていることも交えて本書について書いていくが,素朴に読みにくい本であった。というのも,私たちが書き言葉と読み言葉をそれほど違えずに使うようになったのは,明治期の「言文一致運動」があったからだといえる。しかし,本書『日本風景論』はその過渡期の時代,大室の言葉を使えば「漢語くずれの散文」であったという。もちろん,知らない漢字も多い。そして,その読みにくさは,それが本書の魅力でもあるのだろうが,その構成にもあると思う。以下に示すように,目次は単純明快な論旨を示しているのだが,本書には引用が多い。作者名が示された漢文や詩句などが引用され,漢文には訳文が併記されている。それから,季節ごとの植物一覧表があったり,火山の説明が一つ一つの山について羅列されていたり。ちなみに,火山と登山に関する記述は本書の約半分を占めるわけだが,そうした火山の形をスケッチした木版画も多数掲載されている。

1 緒論
2 日本には気候,海流の多変多様なる事
3 日本には水蒸気の多量なる事
4 日本には火山岩の多々なる事
〔付録〕 登山の気風を興作すべし
5 日本には流水の浸蝕激烈なる事
6 日本の文人,詞客,画師,彫刻家,風懐の高士に寄語す
7 日本風景の保護
8 亜細亜大陸地質の研鑽 日本の地学家に寄語す
9 雑感 花鳥,風月,山川,湖海の詞画について
〔資料〕
志賀重昂氏著『日本風景論』(内村鑑三)
〔岩波文庫初版〕解説(小島烏水)
解説(近藤信行)

そんなことで,明治時代のナショナリストである志賀重昂による本書とは,日本の自然風景の美しさを声高に歌い上げることによって,それが日本人の愛国心に質するというのが大まかなところ。日本列島の自然地理学的な特徴を,1~5までで明確に示し,それを1によって,瀟洒(しょうしゃ,さっぱりしているさま),美,跌宕(てっとう,のびのびと大きいさま)という3つの美的基準によって測る。特に3番目の「跌宕」という基準によって美しいとされるのが4の山々に対する想いであり,本書でも全体の半分ほどが4章にあてられている。また,この記述に影響を受けた小島烏水らが,日本山岳会を設立し,日本のアルピニズムを形成していったというのは荒山氏の論ずるところである。さらに荒山氏はこれまで漠然といわれていた,本書には英文の旅行案内書がネタ本としてある,ということを詳細に示している。
しかし,それは本書を非難することではなく,日本人がそれまで有していなかった山頂から見下ろすという風景の眺め方は外国人旅行者によって日本に持ち込まれたものではあるが,それを日本の独特の風景として論じ,本書がベストセラーとなり,日本にアルピニズムが定着していくことに貢献したといえる。

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