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蛇儀礼

ヴァールブルク, A.著,三島憲一訳 2008. 『蛇儀礼』岩波書店,204p.,560円.

岩波文庫の一冊。ヴァールブルクはカッシーラーやゴンブリッジ,パノフスキー,フランセス・イエイツのような人たちが関わっていたヴァールブルク研究所として名前がつけられた美術史の分野で名前だけ有名な人物。実際,ありな書房からヴァールブルク著作集も刊行されているが,どれも高いので,彼自身の文章はまだ読んだことがなかった。そこで,なぜ彼がこんなタイトルの本を,しかもアメリカ先住民と一緒に彼自身が写っている表紙をした本を残しているのか,そんな疑問もありながら古書店でみかけてついに買ってしまった。ちなみに,私はゴンブリッジの『アビ・ヴァールブルク伝』(晶文社)も持っているが,まだ読んでいない。
本書は,ヴァールブルクが1923年に行った講演会の内容であり,その内容はそれから30年以上前になる彼自身のアメリカ旅行での見聞録である。しかも,その講演会とは彼自身が入院していた精神科の病院におけるもので,彼自身のリハビリを目的にしたものである。そう,彼は長い間精神を病んでおり,結局1929年に亡くなっている。そんなことを知らずに読み始めた私だが,100ページに満たない本文の最後に,ヴァールブルク自身の手紙が掲載されている。それには,この講演の内容は「首を切られた研究者の醜い痙攣である」と書かれており,自身の許可なく公表しないことを依頼している。
本書の内容の前半はヴァールブルクのアメリカ旅行で観察した,いわゆるインディアンの生活における蛇の取り扱いの解説に充てられた,人類学的,民族学的な記述である。蛇は他の動物と異なり,生贄としてではなく生きたまま祭りに登場する。その他にも,さまざまな図像に蛇が用いられ,天からもたらされる雨や雷が蛇の形で描かれ,その部族においては極めて神聖な動物だとされる観察事実。そして,後半はヨーロッパを中心とした歴史歴図像のなかで蛇をモチーフにしたものがいくつも事例として登場し,人類の文化史における蛇の象徴性を探求しようというもの。
まあ,自身が書いているように,そこには驚くべき解釈や発見などはそれほど多くはないが,後半の100ページを費やしているウルリヒ・ラウルフという人物によるドイツ語版への解説と日本語訳者による訳者解説から学ぶことが非常に多い。いわゆるヴァールブルク研究所というのは彼が創設したような一般的な研究施設ではなく,裕福な家庭に育った彼が生涯集めた資料である「ヴァールブルク文庫」が発端にあるものだという。いつかは,ヴァールブルク著作集を読むことになると思うが,本書を読むか読まないかは大きな違いだと思う。

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