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現代帝国論

山下範久 2008. 『現代帝国論――人類史の中のグローバリゼーション』日本放送出版協会,268p.,1070円.

著者の山下氏は私より1つ年下だが,かつてお世話になったことがある。彼が東京大学の大学院生時代,彼が世話をしていた「近代思想史研究会」のような研究会があり,そこに呼ばれて発表したことがあったのだ。今考えると恐れ多いが,たまたまその研究会に参加していた山田志乃布(現在,米家志乃布)さんが,自身の発表の会に,もう一人地理学者を,ということで私に声を掛けてくれたのだ。
山下氏は修士時代にイマニュエル・ウォーラーステインの下に留学に行き,帰国した頃から,フランクの『リオリエント』という分厚い本を,そしてウォーラーステインの新しい本も次々と翻訳出版し,ウォーラーステインの翻訳書の出版元である藤原書店が新しく創刊した雑誌『環』にも関わっていた。その発表の会には著名な研究者や『現代思想』の編集長なども来ていて,その頃投稿前だった田沼武能の話などしたりして,皆さんは非常に有意義なコメントをくれたけど,今思うと,非常に申し訳なかったような気もする。その後ももちろん発表はしないが,その研究会には何度か参加させてもらったが,山下氏が北海道大学に就職が決まって,なんとなくその研究会はなくなってしまったようだ。
その後,2003年に講談社選書メチエから『世界システム論で読む日本』を単著として出版し,2006年には同じくメチエから『帝国論』を出版する。彼はウォーラーステインの世界システム論を基本とし,そのヨーロッパ中心主義を批判したフランクの『リオリエント』にヒントを得て,世界システム論の枠組みでオリエントに位置する日本を考えるというのが研究テーマだといえるが,実はそれらの著書はまだ読んでいない。しかも,つい最近『ワインで考えるグローバリゼーション』などという本まで出版し,驚いて書店であとがきを立ち読みした。そもそもワイン通だった彼だが,趣味を実益にしようというこの本の企画を相当な努力でしっかりとした本に仕上げたようだ(こちらも読んでいない)。
まあ,ともかく彼の本を読んでみたいと思っていたのだが,たまたま外出先で携帯した本が読み終わって,書店で物色したときに見つけたのが本書。ちょうどネグリとハートの『〈帝国〉』から発する帝国論が流行っているのに全く内容が分からず,しかもその分厚い本を読む気にはならないので困っていたところもある。
そんなことで読み始めたわけだが,前半は本当に勉強になった。前半はネグり・ハート流の〈帝国〉論が,世界システム論との相違を中心に分かりやすく解説される。そして『リオリエント』との関係,そしてフランシス・フクヤマの『歴史の終わり』などが手際よく整理される。しかも,さすがだと思うのが,フクヤマのその後の議論もしっかりとフォローしていること。もちろん,フクヤマだけではなく日本で翻訳が出ているようなグローバル論もほどよく検討される。
しかし,後半になってくると名前も知らない論者が多く出てきたり,いきなりジジェク流の精神分析の議論が解釈に加わってきたりで,正直NHKブックスとしては複雑な展開過ぎないか。しかも一方では,さまざまな議論が命名され(例えば「ポランニー的不安」)訳がわからなくなってくる。この「命名」は彼にしか通用しないような独断ではないが,どうにも正直,私とは思考回路がちょっと違うんだろうな,と思ったりしたて。ともかく,引き続き彼の著書を読んで勉強させてもらうことにしよう。

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