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アートピック・サイト

暮沢剛巳 2010. 『アートピック・サイト』美学出版,272p.,1600円.

またまた外出先で携帯した本が読み終わってしまい,渋谷文化村の地下の書店で購入したのが本書。大抵,読むべき本というのは数年前に出版されたもので,一方ではきちんと雑誌に掲載すべき書評の対象となるのはせいぜい1,2年以内ということで,たまには書評を書かなきゃと思っている私は読む本をいろいろ考えてしまう。
文化村の地下の書店は基本的に芸術関係のものが集められているので,当然本書も出版者の名前もしかりだが,「アーツ アンド カルチャー ライブラリー」シリーズの4冊目だという。本書は美術批評家である著者(この肩書きに関してはいろいろいいたいところがあるらしく,あとがきに書いてあります)による評論集であり,1999年から2009年までの10年間に書かれた32の文章が収録されており,ほんの3ページの文章もあれば,30ページ近くのものもある。まあ,美術批評はけっこう出ているので,門外漢の私が読むべき本は他にもあるはずだが,本書はそのタイトルと目次に惹かれたのだ。
「アートピック」とは「アート」+「トピック」であるが,topicとは話題であると同時に,topos=場の形容詞でもある。だから,これに「サイト」をつけるのは冗長でもあるのだが,あえてカタカナにするのはsiteだけでなく,sightも含むことができるから。そもそも美術とは視覚重視のものである。そして,この造語「アートピック」は「アトピック」からヒントを得たものでもある。デリダがたまに用いるこの言葉はhistoryに接頭辞のaをつけることで「没歴史的」となるように,「atopic」は没場所的となるのだ。しかし,実際の辞書的意味はまさに皮膚炎の「アトピー」のことだ。この両者の関係についても論じたいと思っていたので,本書には関心を持った。しかも,その32の文章を分類した結果の目次は以下の通りである。

I cityscape――都市のなかのアート
II mediascape――メディアのなかのアート
III onumiscape――精神のなかのアート
IV modernscape――モダニズムのなかのアート
V humanscape――作家論とその周辺
VI technoscape――メティエのなかのアート

確か,アパデュライの『さまよえる近代』でも,○○scapeって造語でいろいろ説明していたような気もする。しかし,scapeというのはlandscapeの他に利用される接尾辞というわけでもないのに,都合よく使われる場合は多い。まあ,ともかく,美術批評としての本書は,美術の生産と鑑賞にまつわる場所と景観の問題を考えると銘打っているので,書評の題材としてはこの上ない。
しかし,本書に収められる文章は既に書いてあり,その上で,本書のタイトルや場所と景観の問題というのは跡付けに過ぎないといえないこともない。でも,現代芸術を専門とするこの著者であるから,逆にいうと現代美術自体が作品の生産と鑑賞に「状況」というものを考えるようになっているのだ,といえなくもない。かつての美術品といえば,油絵やブロンズ彫刻など表現の仕方は限定され,作者の方もそれ自体を疑うようなことはなかった。しかし,現代美術は既製の「モノ」を作品の一部として組み込んだり,表現形式それ自体の選択にもオリジナリティが現れているといえるし,現代美術でよくある「インスタレーション」とは「install」することであり,いわば作品の内外に「導入すること」である。あるものを作品に取り込むことと,作品自体を何かに組み込むことである。つまり,本書でもよく登場する「物質性」は現代芸術のキーワードでもあるのかもしれない。そして,「物質性」は近年の人文地理学のキーワードでもある。地理学の場合は芸術を含む表象分析なんて,もうやめてもう少し現実的な社会問題について考えましょうよという警笛でもある。しかし,どうなんでしょうね,ってのが私の考え。
本書のなかでもこの危機の時代に芸術をやったり,芸術について考えるなんて不謹慎だったり無駄だったりするのだろうかという問い。でも,少なくとも芸術家は芸術しかできないからやっているのだし,批評かも批評しかできないのだ。自分のできることで社会を変えてゆけると信じることも悪いことではないと思う。ちょっと話は逸れたが,作品における物質性だけではなく,すでに書いたように,その作品が鑑賞される場の状況というのにも現代芸術はこだわっている。また,それらを展示する場である美術館もそうしたこだわりがあるというのが近年の傾向であり,そのことは本書にも反映されている。しかし,やはり地理学者の目から見ればまだまだその辺りで論じることができることは少なくないと思う。是非,芸術に明るい地理学者の登場を願いたいものだ。
さて,これを元に雑誌に掲載させる書評原稿が書けるのだろうか...

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