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本当はこわいシェイクスピア

本橋哲也 2004. 『本当はこわいシェイクスピア――〈性〉と〈植民地〉の渦中へ』講談社,237p,1500円.

私はシェイクスピア作品を,白水社の「uブックス」で揃えている。全37巻のなか,集まったのはまだ7冊。

夏の夜の夢
お気に召すまま
十二夜
終わりよければすべてよし
マクベス
冬物語
テンペスト

シェイクスピアの研究書もずいぶん読んでいます。

フランセス・イエイツ『シェイクスピア最後の夢』
フランク・カーモード『シェイクスピアと大英帝国の幕開け』
スティーヴン・グリーンブラット『シェイクスピアの驚異の成功物語』
ノースラップ・フライ『シェイクスピア喜劇とロマンスの発展』
テリー・イーグルトン『シェイクスピア――言語・欲望・貨幣』

そうそうたる著者たちですね。しかし,本書はそれらにも負けていない面白さがあります。本書は「講談社選書メチエ」の一冊なので,厳密な学問性は必要ない。しかし,本書は決して読者にこびるような分かりやすさがあるわけではない。ここでも何度か本橋氏の著書を紹介しているように,彼は入門書でも決して読者をバカにしたような一般的な分かりやすさを優先することはない。しかし,本書では煩雑な引用関係の記述を省いている。といっても,読者のために各章で便利な参考文献を巻末に示している。しかし,その文献が本当の意味での参考書なのか,あるいは各章の解釈で著者が用いたものなのか,分からない。
さて,本書で取り上げられるシェイクスピア作品は4つ。『テンペスト』に『ヴェニスの商人』,『オセロ』と『アントニーとクレオパトラ』で,私が実際に読んだのは『テンペスト』のみ,『ヴェニスの商人』は大体の筋は知っていて,『オセロ』はジョシュ・ハートネット主演映画『O』を観た。そんなことで,始めから終わりにかけて,理解力は段々低下していく。4つの作品に限定した密な分析をしているので,できればその4つの作品を読んでおいた方が理解が高まります。
本書のタイトルは,以前あった『本当はこわいグリム童話』のパクリだが,かなり意味合いは違う。1600年前後に書かれ,上演されたといわれるシェイクスピア劇だが,400年の時を経て愛されるがゆえに正典とみなされ,そのことはどの時代にも通用する人間の本質を描いたものだからだとみなされている。恋愛関係や親子関係,政治的な問題などの普遍的なテーマを扱ったものだと。しかし,そんなシェイクスピアをあえて,その時代背景の中において読もうというのが本書。なにが「こわい」のかは是非読んでもらいたいと思うが,例えば『テンペスト』では植民地の問題,『ヴェニスの商人』はユダヤ人問題,『オセロ』では人種差別問題,などなど。普遍的作品と思われているシェイクスピアにも時代特有の社会問題が組み込まれており,しかもその扱いはシェイクスピア流のものであるがゆえに,その作品解読はそれらの問題が時代特有でありながらも現代にまで引き続くものであり,それについて考える礎を与えてくれる,ということだ。

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