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カール・マルクス

アンリ・ルフェーヴル著,吉田静一訳 1960. 『カール・マルクス――その思想形成史』ミネルヴァ書房,342p.,620円.

一時期,古書店でルフェーヴルの訳本を見つけたら買っていた時期があった。ルフェーヴルはフランスのマルクス主義者だが,マルクス主義の歴史は日本の方が早いので,フランスでは先駆的なマルクス主義者だったルフェーヴルは日本でも早いうちから紹介されていたようだ。最近では1974年の『空間の生産』が1991年に英訳されたことで,地理学や社会学でルフェーヴル人気が高まり,2000年には日本語訳が出た。しかも,私が持っているルフェーヴルの翻訳書はせいぜいB6版で300ページ台だったのに,『空間の生産』はA5版で600ページ強もある。ルフェーヴルの単行本としては異例の分量だといえる。まあ,それはともかくルフェーヴルの本で手元にあるのは以下の通り。

『カール・マルクス』(原著1947,邦訳1960,本書)
『マルクス主義』(原著1948,邦訳1952)
『美学入門』(原著1953,邦訳1955)
『日常生活批判序説』(原著1957,邦訳1978)
『哲学者の危機――総和と余剰 第一部』(原著1959,邦訳1959,未読)
『歴史の証人――総和と余剰 第二部』(原著1959,邦訳1960,未読)
『都市への権利』(原著1968,邦訳1969)
『日常生活批判1』(原著1961,邦訳1969)
『日常生活批判2』(原著1962,邦訳1970,未読)
『言語と社会』(原著1966,邦訳1971)
『都市革命』(原著1970,邦訳1974)
『空間の生産』(原著1974,邦訳2000)

まだ『空間と政治』とか,『弁証法的唯物論』など読みたいけどまだ入手していないものもある。しかし,けっこう持っていると思いきや,それ以上にまだまだ翻訳本があったというのも驚きだが,それも『空間の生産』を除くほとんどが1970年以前の翻訳であるというのも驚きだ。
そんな,以前買ったが数年読まずに置いておいた本書を何気なく手にとって読み始めたのだが,なかなかいいタイミングだったような気もする。というのも,ずいぶん前に『哲学の貧困』を読んだものの,イマイチその意味するところが読み取れず,最近ようやく『ドイツ・イデオロギー』を読んだが,続いて『ルイ・ボナパルトのブリュメール18日』を読もうとしながらも断念。マルクスの本を読むにもなんからの指南が必要だと思っていたので,本書はとても勉強になった。本書は,

序論
第一部 誕生から『宣言』までのマルクスの生活と著作
第二部 『共産党宣言』から『資本論』へ
第三部 『資本論』
結論

てな具合に,マルクスの主要な著作をマルクス自身の個人誌とともに理解するという,まあある意味ではオーソドックな試み。
序論では,まずフランスにおいてもマルクス主義というものがかなり矮小化されて誤解されたたまま批判されているという事実を確認し,真なるマルクス主義とは何かを問う。とにかく,マルクス主義者になるためにはマルクスを読まなければならないという当たり前だが,ちょっと私には耳が痛い。
第一部では,私がほとんど知らなかったマルクスの個人誌について書かれている。学生時代から活動家であり,若くして結婚。エンゲルスとの出会い,エンゲルスとの関係が支えた貧しい時代のマルクスの生活。そして,学問においては理論と実践という区別だが,彼自身においては学問と政治活動という両者を行き来しながら(まさに弁証法的に),マルクスの著作は出来上がってきたということ。そして,第一部では史的唯物論に関する説明もあり,それほど詳しい説明ではないが,私がこれまで読んだ本の中でもかなり史的唯物論についてその本質を理解できたような気がする。そして,それを理解するにはやはり『ドイツ・イデオロギー』が重要らしい。
第二部は『共産党宣言』についての説明に充てられているが,マルクスの学説にとって,1848年が重要であるという。そして,もちろんこの書は彼の政治活動家としてのあり方と,もちろん当時のヨーロッパにおける政治状況とが大きく関係しているという。そして,『ルイ・ボナパルトのブリュメール18日』についても説明がある。
第三部は『資本論』の概説からその後のマルクス主義政治活動について。『資本論』の概説を読むのも初めてだったが,これもとても分かりやすかった。著者ははじめから『資本論』の全体を概説することは無理なので,要点のみ主要なところだけを解説するように努めているところがいいのだと思う。しかし,マルクスが資本主義がこの先どうなると考えているのかというところまで議論を進めているところは興味深い。そして,マルクスの晩年についてや,そのころの政治運動についても説明されている。
さほど分量の多くない本でありながら,大量の文章を残し,波乱に満ちたマルクスという人物についてコンパクトにまとめているのはさすが。

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