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情報過多の現代育児

その後,妻は数日で授乳のコツをつかんだ。まずはこれまで使っていた哺乳瓶の先を乳頭にくっつけて,飲ませる。哺乳瓶と実際の乳首とを交互に飲ませていると,赤ちゃんが「乳頭混乱」なるものを起こすといわれているから,なかなか飲んでくれない乳首から直接の授乳はひとまず先送りにし,でも同じ哺乳瓶の先でも,ちょっと吸えばミルクが次々入ってくる哺乳瓶とは違って,自分の力で吸わないと母乳は出てこない。まずはそこから覚えさせるという戦略。これが2日くらい続き,子どもも随分慣れた様子。

そこで,妻は今度は哺乳瓶の先を使うのをやめ,直接乳首から吸わせることに挑戦。こちらも混乱が起きないように,乳首だけ。これも2日間くらいで軌道に乗る。しかし,これで全てが解決したわけではない。1日中乳首から吸わせるということはやはり乳首そのものへのダメージも大きい。きちんと乳首を吸い込んで飲むまでに毎回,試行錯誤があるのだが,そこで赤ちゃんが苛立って,歯のない口で乳首をガブっと噛んでしまうことがある。また,きちんと吸ったら吸ったで,けっこうな吸引力はやはり痛んだ乳首には厳しい。

そんな状況で,先週の助産師による2週間検診に続き,市の保健士による訪問が3週間目にあった。ここでも体重を量ったのだが,2週間検診までに順調に増えていた体重が,それから1週間でほとんど増えてなかったのだ。哺乳瓶で与える時は赤ちゃんがどれだけ飲んだかをきちんと把握できるのだが,直接乳首から吸わせた時は,それがよく分からない。その体重の結果を見て,妻はまた落ち込んでしまうのだった。よく考えれば,以前よりウンチの量も減っていたし,睡眠時間も減っていたので,常に空腹状態にあったのではないか,と思い起こすたび,また自分を責めてしまう。

母乳を勧める育児書のほとんどは,母親とその子どもは元来母乳を飲むという行為によって結ばれていて,よっぽど母親の母乳が出ない限りは,母乳だけで育てることが可能だという信念に基づいている。なので,あまり代替案を用意していない。母乳のための良いことを,運動やマッサージ,食事や授乳のスタイル,時間,などなどの情報が掲載されているだけ。一方で,粉ミルクのパッケージに記載されている1日の飲ませる基準量は驚くほど多い。母乳ってそんなに出ているのだろうか?ともかく,新生児育児に関する情報は溢れているが,それらに一貫性などないのだ。

ということで,またまた軌道修正。1週間前に搾乳して冷凍保存した母乳を活用したり,粉ミルクを追加したりして,赤ちゃんの飲む量を増やす。でも,子どもの方は1週間ほど乳首から直接飲むことを覚えたので,ミルクを十分飲んでもそれだけでは眠ってくれない。乳首を吸う行為がほどよい運動量となり,疲れで熟睡できる仕組みになっているようです。とうことで,飲む量に関係なく,乳首も吸わせたり。

そんな妻の授乳の苦労を気に留めていた保健士さんは,個人的に連絡を取ってくれ,また数日後に訪問してくれた。再度体重を測定すると,やっと3kgを突破。この方針も数日で軌道に乗り,ウンチの量も増え,睡眠量も増えた。それにしても,わが家は布おむつで育てるつもりだったが,まだそこまでの余裕がなく,紙おむつのお世話になっているのだが,それはそれで恐ろしい。90枚入りのものを買ってきても1週間はもたないし,いくら市から無料のゴミ袋が配布されているとはいえ,週2回の燃やせるゴミの日には必ず,そのMサイズのゴミ袋を出さないといけないほどの量を出している。そもそも,私たちの生活は生ゴミ処理機の活躍もあって,Mサイズの1/3の量にすぎないSサイズ袋で,週に1回弱しか出さないのだ。つまり,普段の10倍近い燃やせるゴミを出している計算。

そして,わが家は以前ほしい物リストに書いたが,デロンギ製のオイルラジエータヒーターを導入している。大人だけだったら,寒い冬でも湯冷めしないうちに布団に入って寝てしまえば,朝まで暖房を使用せずにすむ。しかし,赤ちゃんは夜中起きる。当然,妻も起きる。しかも,胸をはだけて授乳をしないといけないのだ。その状態では既に今の季節でも寒く,このヒーターが大活躍。このヒーターは熱量をコントロールできるのはもちろんのこと。1日24時間のタイマーつきなのだ。そもそもが,スイッチを入れてから15分くらいしないと本体が暖かくならないし,本体が熱しても,部屋が暖まるまでにはまた時間がかかる。でも,逆にいえば,スイッチが切れても暖かさは持続するのだ。なので,そのタイマーというのは,ONとOFFを15分単位で繰り返すことができる。夜中は1時間のうち,30分をONで,30分をOFFといった具合に。それによって,室温については随分快適に過ごせているのだが,なんと電気代は1ヶ月2000円増し。もう少し効率よい利用法を考えなければならない。

さて,妻のことばかり書いているが,私は実際何をしているのか。まあ,基本的には家事全般。妻には申し訳ないが,翌日会社がある日は,私は別の部屋に寝る。一応,泣きやまないほどの時には(というか,別の部屋まで聞こえて起こされる場合には)手伝いに行くが,夜間は妻担当。私はこれまでより2,30分ほど早く起きる。朝食の準備と妻の昼食の準備。子どもの服はそれ専用の洗剤で手洗いし,洗濯機で脱水をして干す。自分たちの服は,以前は2日に一度まとめて洗っていたが,妻の外出着がなくなって量も減っているので,毎日少ない量を倍速で洗う。ちなみに,わが家の洗濯はお風呂の残り湯を使うのだが,室内に洗濯機置き場がないので,浴槽からベランダの洗濯機まで6mほどの往復をするのだ。倍速が可能な水の量は28リットルで,水を運ぶために使っているものは14リットル。倍速の場合,すすぎを1度しかやらないので,合計4往復。
会社はもちろん定時勤務。9時から5時まで。直帰したり,食材を帰り際に買ったりして18時前には帰宅。夕食も私の担当。合間にはおむつも換えるし,妻が授乳中に足りない分の粉ミルクを作り,搾乳機や哺乳瓶を洗ったり。そして,私の重要な任務は寝る前の沐浴。妻がシャワーを浴び,浴室が程よく暖まったところで,子どもを入れる。トイレの上に広げた毛布とバスタオルでくるんで,和室へ移動。私がお風呂を片付けている間に妻はベビーオイルを塗ってのベビーマッサージ。おむつを履き,服を着させ,私は鼻や耳の掃除用の綿棒を用意し,掃除する。落ち着いたら,私は自分の入浴へ。まあ,そんなところか。

でも,この毎日では妻の体力的・精神的疲労はどんどん蓄積する。いくら添い寝といっても,私に似たのか鼻息の荒い息子の寝息のする横では熟睡できないらしい。もちろん,部屋の中に一日中いるのも窮屈だ。ということで,最近では私が1,2時間息子の面倒を見ることにして,いつも私が寝ている部屋で寝てもらったり,買い物くらいは行ってもらったり,夕食を作ってもらったりしている。
まあ,とにかく自転車操業的に毎日をやり過ごしているような日々です。

11月19日(金)

そんななか,妻が私に気を遣ってくれて,金曜日の朝の大学講義の後に,1本映画を観て帰ることが許された。それは妻も観たいといっていた映画で,第1弾上映の神保町シアターでは最終日になってしまった作品。市ヶ谷で講義を11時に終え,神保町まで歩いていく。靖国神社を抜け,靖国通りを東に進む。そういえば,20年前,私はかつて九段下にあった福武書店(現ベネッセ)に週1回通っていた。なんと,赤ペン先生をやっていたのだ。九段下は東武伊勢崎線から地下鉄を乗り継いで,東横線の都立大学駅までの途中にあった。当時私は大学生で,長距離通学の私は時間の都合のつくアルバイトを探していて,自身が中学から高校にかけてやっていた赤ペン先生の採点者のアルバイトを始めたのだ。
九段下を抜けて神保町へ。こちらでも修士課程2年の時にアルバイトをしていた。卒業論文を指導してくれた先生の紹介で,帝国書院で週に3日働いていたのだ。なんか,そんな思い出に耽りながら,私の人生,意外と都営新宿線に縁があるのだなあと思ったり。
神保町に着くと,以前よく行っていたチケット屋が宝くじ売り場に替わっていた。幸い,三省堂書店の1階にチケットぴあがあり,そこで前売り券を購入し,そこから徒歩一分の神保町シアターへ。実は,映画通の私ながら来るのは初めて。なかなかいい雰囲気でスクリーンは地下にある。受付をして一旦食事に外に出る。ここは指定席制ではなく整理番号制。30分弱の間にどこで食べようかと思いあぐねながら,やはりカレー屋「エチオピア」へ。最近は妻の母乳のことを考え,肉類は控えている。慣れない魚料理に奮闘しているのだ。なので,豆カレーが美味しいエチオピアだが,ビーフカレーを注文。カレーならちゃちゃっと食べてと思っていたが,そういえばと思い出す。平日の12時前にもかかわらず男性客でごった返す店内でも,丁寧に一皿一皿調理するのがここのモットー。結局,15分待たされて,10分以内で完食し(平日の昼間はアイスがサービスでつく),映画館に急いで戻る。

神保町シアター 『森崎書店の日々
原作は「ちよだ文学賞」受賞作。この文学賞は千代田区の実在する場所を作品中に織り込むという面白い条件付のものらしい。ということで,神保町の古書店を舞台にしたこの作品。上述したように,私は一時期神保町でアルバイトをしていたのだが,ちょうど修士論文に取り組んでいた時期でもあって,アルバイト代の一部は古書の購入代に消えていった。もちろん,神保町に限らず古書店は大好き。思いがけないところでいい古書店に出会うことほど嬉しいことはないというほどだ。
粗筋はホームページからでも予告編を見ていただければ説明不要。ある男にふられた(?)主人公が,母親の弟(すなわち叔父)が一人で切り盛りする神保町の古書店「森崎書店」の店舗の2階に仮住まいすることになる。この主人公を演じるのは映画初主演の菊池亜希子。以前から,献血ルームで女性誌を読んでいる時に登場して気になっていたモデルさん。現在28歳の彼女はエッセイなどでも活躍の場を広げているようだ。内藤剛志演じる叔父は,店舗とは別の場所に自宅を持っているが,一人での経営では自由が利かないが,アルバイトを雇うほどの余裕もないので,ちょうど物置になっていた2階に姪に住んでもらうことで,家賃を請求しない代わりにたまに店番をしてもらうという条件。とある日,叔父は近所の喫茶店に姪を連れて行く。きたろう演じる店主のこの店では田中麗奈演じる女性アルバイトがいたりして,主人公と仲良くなる。麗奈ちゃんの役どころは明治大学の国文学専攻の大学院生。森崎書店にもよく古書を物色しに来るという設定。
なかなかその男を吹っ切れずにいる主人公だが,全く関心がなかった古書の世界に徐々に惹かれていき,また少なからずこの街で出会う人々との交流を通じ,自分自身を見つめなおし,次のステップへと踏み出していく。まあ,ある意味では有体の物語ではありますが,なんといっても,雰囲気のいい作品。プロデューサーが市川 準監督との関わりがあるらしく,市川作品『東京マリーゴールド』に出演していた麗奈ちゃんもその頃のことを思い出したという。確かに,とつとつと下北沢を描く市川作品『ざわざわ下北沢』などの雰囲気にも通じるものがある。そして,なによりもその雰囲気の中心には古書があるのだ。私が古書店を訪ねるとき,そして1冊1冊を手にとって思いに耽る時,そんな雰囲気が見事に映像化されていて,またそのなかに菊池亜希子ちゃんが見事に溶け込んでいる。まさしく愛すべき作品。古書店はブックオフなどとは違って,年老いた店主が本に目をやりながら物静かに店番をしている。店内にはラジオやクラシック,ジャズが控えめな音量で流れ,2冊と同じ本が並ばない本の宇宙。

主人公が女性ながら,原作者は男性。しかも,監督は女性の日向朝子さんだという。だからか,どの登場人物もどこか中性的な雰囲気を持っています。穏やかな気分にさせてくれる作品。いい気分でパンフレットを購入し,外に出る。森崎書店の撮影で使われていた古書店には見覚えがないが,明らかにその立地している所は映画館の近くだと思い,そちらの方に足を運ぶと,ありました。現在は映画公開中ということで,映画のスナップ写真などが壁面に飾られている。

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コメント

流行りの『イクメン』ですね!!
(意味→育児をするイケメン。。。…だったかな?)

古書店が好き≒読書が好きになれれば、
先日授業で言ってたように、
もっと知識が増えて、「面白い」と思えることが増えるんですよね。
そこで、読書を習慣に取り入れたいと思っているのですが、やっぱりTVに夢中になって無駄な時間を過ごしてしまう…
TVなし生活、私もやってみようかと思ってます

投稿: アードベック | 2010年11月22日 (月) 01時56分

福武書店(現ベネッセ)の本社は岡山にあるんですよ。ま、だからどうした、って訳でもないのですが(笑)。
 
「森崎書店の日々」は、こういう経緯で最終日にご覧になったのですね。いつかは行ってみたい神保町シアター。ここは確か、外観がおシャレというかユニークなんですよね。本作は、是非どこかのスクリーンで観たいものです。
 
イクメン活動も頑張っておられますね~! 赤ちゃんを抱えた世間のママたちがこの日記を読んだなら、奥様のことが羨ましくてたまらなくなるでしょう。これからも、ご無理のない範囲で、育児日記を綴っていって下さいね。貴重な記録にもなるでしょうし。

投稿: 岡山のTOM | 2010年11月22日 (月) 02時34分

アードベックさま

イクメンはやめてくださいよ。流行で育児をやっているわけではないんですから。生物学的には妻が産んだ子ですが,社会的には夫婦で育てているんです。
そもそもの,社会の捉え方がおかしいんですよね。

読書はどこでもできますよ。
通学の電車の中。テレビなし生活よりも,携帯電話やポータブルステレオ(?)などに暇つぶしを頼らない生活なんてどうですか?
外出時に本を1冊持ち出せば,いろんな待ち時間など,意外に読む時間は多いはずです。
私も自宅では歯を磨くときや排便をしている時くらいしか読みません。

TOMさん
もちろん,福武書店が岡山の会社だということは知っています。直島の施設も有名ですよね。
そうですね。神保町シアターはなかなか独特な建築です。個人的には渋谷のシネマライズが好きですが。

投稿: ナルセ | 2010年11月22日 (月) 20時52分

ご無沙汰しております。イクメンという単語すら知らなかった、るみです。遅れましたが、ご出産おめでとうございます!!
なんだか成瀬さんが以前より生き生きしているようで、読んでいるこちらにも伝わってくるものがあります。これからもますますのご活躍をお祈りするばかりです。陰ながら応援しております!!

投稿: るみ | 2010年11月22日 (月) 22時02分

るみさん

お久し振りです。お元気ですか?
まぁ,自分では子どもができて以前より生き生きしているとは思わないのですが,文章の雰囲気が変わったのは確かでしょうね。
まだまだ手がかかる時期なので,子どもの寝顔に元気をもらうというよりは,元気すぎる子どもに活力を奪われているといったところでしょうか。
ということで,皆さんの応援が励みになりますので,よろしくお願いします。

投稿: ナルセ | 2010年11月23日 (火) 21時30分

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