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パレスチナ問題

サイード, E. W.著,杉田英明訳 2004. 『パレスチナ問題』みすず書房,377p.,4500円.

いわずと知れたサイードの主著の一つ。サイードも,『オリエンタリズム』に始まり,『世界・テキスト・批評家』,『イスラム報道』,『始まりの現象』,『知識人とは何か』,『パレスチナとは何か』,『音楽のエラボレーション』と続けて読んできたが,原著が1993年の『文化と帝国主義』の上巻を読んだところで,私のサイード熱は冷めてしまった。というか,それ以降の彼の著作はインタビューだったり,自伝だったり,エッセイだったりと,かなり学術的な意味合いが薄くなってきたせいもある(と,読みもせずにえらそうに書いているが)。しかし,なんとしても読みたかったのが本書。原著は1978年の『オリエンタリズム』に続いて,1979年に出ていたものの,翻訳は21世紀にまで待たなければならなかった。しかし,パレスチナ問題自体は私の研究とは直接関係してこないので,この厚さとこの値段はなかなかすぐ購入して読み始めるにはいたらず。
ようやく,新刊古書だが,少し安価で購入し,そして自宅でゆっくりと読み始める。基本的にサイードの学術的意味合いを持った著書は難解で,100%理解するには至らない。一応,本書は完全なる学術的なものというよりは彼の政治的宣言を含むものとして理解していたが,実際読んでみるとそのバランスが素晴らしい作品だった。私が読むのを躊躇していたのは,私自身パレスチナ問題に関する知識があまりにも欠けていたからだ。本書を読む前に,前にも紹介した,リウスの『パレスチナ問題入門』を読んではいたが,自信がなかった。実際,『イスラム報道』も基本的な事実を知らなかったが故に,理解度はかなり低かったからだ。
しかし,本書は基本的な事実はかなり丁寧に解説されており,これまで読んだサイード本にしてはかなり理解度は高かったといえる。また,『オリエンタリズム』の場合は学術的な精確さが優先され,政治的立場は二の次になっいるため,その主張の含意はわかりやすいものではない。それに対し,本書はパレスチナ擁護の立場が貫かれており,論旨が明確だといえる。そして,何よりも翻訳が素晴らしい。といって,原著と比較したわけではないが,冗長ではなく的確な訳注がつけられているのが嬉しく,日本語もとても読みやすい。
本書は必読書ともいえるので,私の拙い解説文をつけるのは気が引けるし,ちょっと丁寧すぎる訳者解説もあるのでやめておこう。私的には,『オリエンタリズム』と同様の表象分析,言説分析を交えながら論が展開していく前半が好きだ。ちなみに,訳者解説では,本書に対する様々な立場からの書評についても言及されており,これまた嬉しいところである。

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