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読まず嫌いは治らない

12月28日(火)

会社は前日で仕事納め。私の通う会社は夏休みは各自でとり,決まっていないため,アルバイト契約の私はほとんど取らない(給料が減るだけだから)。なので,年末年始がいちばん長い休みで,今回は8日間ある。
この日は妻が『バーレスク』を観たいというので,子どもの世話を請け負って午前中に一人で観に行った。その代わりじゃないけど,比較的近所でやっている『ノルウェーの森』を私が夕方から一人で観に行く。

府中TOHOシネマズ 『ノルウェイの森
いわずと知れた村上春樹の原作の映画化。原作は意外に新しく,1987年の出版なんですね。そして,この作品のタイトルは1965年のビートルズの楽曲からきている。ちなみに,私は村上春樹を読まず嫌いなのだが,まあ映画なら観てみようという気軽な気持ちで観に行った。というのも,高良健吾君ファンの妻が,「これ私観るけど観る?」と聞かれ,一緒に前売り券を買った次第。まぁ,共通の話題にもいいでしょう。
映画化の監督はトラン・アン・ユン。前作は木村拓哉も出演した『アイ・カム・ウィズ・ア・レイン』。監督はベトナム系フランス人で,私も観た『青いパパイヤの香り』はベトナム撮影の映画。本作はそのことを強く思い出す映像が前半で印象的だった。舞台は前編日本なのだが,雨のシーンが多い。といっても,ハードボイルド的な雨の使い方ではなく,日本がアジアの一部であり,モンスーン気候に属することを印象付けている。そう,映画作家としては常にアジアを志向しているフランス人監督にとって,日本もアジアの一部であるという意識を反映しているのか,あるいは日本の鑑賞者が多いことを見越して,日本は経済的・文化的には欧米に近いと勘違いしているかもしれないけど,本来はアジアの一部であることを思い出させるための演出かもしれないと思った。
そして,撮影監督はホウ・シャオシェンやウォン・カーウァイなどの作品を手がける台湾の李 屏賓。最近日本的映画(日本人俳優を使った外国人監督を含むという意味)では,『珈琲時光』や『空気人形』,『トロッコ』なども彼の撮影だったらしい。なので,各場面でのロケーションが素晴らしく,登場人物を取り囲む風景はどこも美しい。ちなみに,私がピンと来たのは,松山ケンイチ演じる主人公のワタナベが,菊池凛子演じる直子と久し振りに再会するシーン。これは鎌倉の鶴岡八幡宮境内にある,神奈川県立近代美術館であることがすぐに分かった。あともう一点,映像的に面白いなと思ったのは,登場人物2人が語るシーンの多くが静止した状態ではなく,歩いているということ。しかも,ワタナベと直子の2人のシーンはしゃべりもせずに,黙々と歩くシーンもある。それは単なる映像における美的問題だけではなく,作品としての歩くということに対する省察でもあるところに意味がある。原作でもこの哲学は貫かれているのだろうか。
しかし,それ以外は全般的に私はこの作品の価値を評価できない。原作を読んでいないのでなんともいえないが,原作自体が舞台となっている1960年代後半の日本とはかけ離れた20年後のヨーロッパで執筆されたという。もちろん,その時代を生きていた作者の記憶によって再現されたといえ,1980年代後半に原作を読む読者と,21世紀に入って映像化された映画を観る鑑賞者(そして,私も含め1960年代を生きていない)にとって,このファッションと学生運動の盛りの大学の風景を見ることはノスタルジー以外のどんな意味があるのか。そして,本作のワタナベを始めとする人物の描写を通して,読者・鑑賞者は何を得るのか。あるいは,人間の生など無意味で,小説を通して何かを学ぶなどばかげたことであるというメッセージが1980年代後半としては斬新だったのだろうか。まあ,それは訳者の決まり文句のようなものではあるが,松山ケンイチがこの作品に出演できて誇りに思うとか,訳者人生の転機になるとかいったり(実際に言ったかどうかは分かりません),菊池凛子が役者になる前に原作を読んで,この作品が映画化されるのであれば直子役は絶対に私がやるとかいう思い入れは私には理解できない。特に,この思い入れから,監督に直訴してこの役を勝ち取ったという菊池凛子という配役はどうだったのだろうか。確かに,彼女自身はその思い入れを成し遂げるような迫真の演技をした。それはそれで評価はできるだろうし,彼女自身は満足だろう。しかし,それを観る人はどうなのか?正直,私は他の女優さんで観たかったと思う。具体的に誰が良かったとはいわないが,少なくとも彼女はちょっと...
それから,細かいことだが,直子が亡くなった後,ワタナベは放浪の旅に出る。そこでの髭面の松山ケンイチ。何かおかしい。彼は髭が薄いほうではないと思うので,きちんと無精ひげは生えると思うのだが,なにやら付け髭のように見える。『ヘヴンズ・ストーリー』でも,忍成修吾君が付け髭をしていたが,彼の場合は恐らく髭がもともと薄いのだと思う。それに対し,恐らく今回はタイトな撮影スケジュールか,松山ケンイチが他の作品との同時進行の関係か,ともかくそんな事情ではないだろうか。そんな些細なところでも,残念に思うことはある。また,ビートルズの楽曲である「ノルウェイの森」は本作とは何の接点もない。一応,取ってつけたように一人の登場人物がギターでこの曲を弾き語るシーンがあるのと,これは話題になったがビートルズによるオリジナル録音をエンディングで使用しているほかは何もない。そもそも,原作にこの曲に関する言及はあったのだろうか。
まぁ,他にも書きたい文句はあるが,生産的ではないのでこの辺にしておこう。正直なところは,この映画を観て,「やはり村上春樹くらい読んでおかないといけないか」と思わせてくれることを期待したのだが,私の村上春樹に対する読まず嫌いは治らないようだ。

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コメント

ノルウェイの森、見たんですけどぉ、周りの客の一声「断片的すぎない?」だって。同感。
監督の撮り方は、センスいいけど、セリフが原作に負けすぎ。
つか、編集が下手だな。台本の。
ベトナムの監督をオススメなのは、分かるんだけど、きんこさんが。ま、日本の監督が撮ったら、もっとブーイングだったな。
なんか、退屈だったよ。
途中、トイレに行く人も多かったし。
センスの悪い人が仕切るとあんなもんかな。

投稿: あおみ | 2011年1月 4日 (火) 16時36分

あおみさん

あら,普通の書き込みもできるのね。
まぁ,原作を愛しているなら観ないことですな。
あるいは,別物として観るとか。所詮,小説と映画は違いますから。

投稿: ナルセ | 2011年1月 5日 (水) 19時28分

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