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差異の文化のために

リュス・イリガライ著,浜名優美訳 1993. 『差異の文化のために』法政大学出版局,138p.,1600円.

イリガライの著作は,『性的差異のエチカ』,『基本的情念』に続いて3冊目。『性的差異のエチカ』が講義録集であると同時にかなりディープな哲学論。『基本的情念』がかなり詩的な文体だったのに対し,本作は1つ1つの文章が非常に短いエッセイ集。なかにはインタビューもいくつかあります。このページ数にして,目次は以下の通り。

ささやかな宣言――平等を要求する女たちか,それとも差異を主張する女たちか
女の系譜の忘却
宗教的ならびに世俗的神話
女の言説と男の言説
母性の秩序について
差異の文化
女として書くこと
「わたしはエイズにかからない」
性と言語の性
生命の権利
なぜ性別のある権利を規定しなければならないか
「男よりも女」
あなたの健康とは何か,誰のことか
わたしたちの美をどのようにして創造すべきか
年はいくつですか
言葉の代価
それでは――いつになったらわたしたちは女になるのか

『性的差異のエチカ』も同じ浜名さんの訳なのに,そんな具合で随分読み応えが違う。本書は1987年から1989年にかけて書かれたエッセイやインタビューが収録され,原著は1990年に出版されているが,かなり古臭く感じる。本書はエッセイであると同時に理論より実践的なもの。古臭く感じるというのは女性の立場が云々という記述が1960年代くらいに感じてしまうが,でもこの21世紀に女性の立場は確実に向上したかと問われると,多少古臭く感じられるものであっても繰り返し主張することが大切なのかもしれない。
そして,それはイリガライの運動家(もちろん理論家としても)としての立場を明確に示しているのが,彼女は性の平等を求めるのではなく,「性的差異」を強調しているということだ。「女の系譜」や「母性の秩序」というのはそのことであり,世界の多くの地域を支配している家父長制に対して,つまり父系家族に対して,母系の系譜を重視し,それを積極的に記録し,つむいでいくことを提案している。そして,父系に対して劣位に見られがちな母系についてもその秩序を強調する。
そして,もう一点,これこそが私にとって重要だったのは言葉の問題。日本語には明確な女性名詞と男性名詞の区別はないが,フランス語は他のヨーロッパ言語よりも明白な言葉の性別があるようで,いくつかの事例を挙げながら論じている。多くの言語学者は言語の性別については偶然としているらしいが,イリガライは明らかに男性中心の社会構造の一部として言語があり,そこにおける性別はそれを反映しているという。そして,少なからず女性の立場が変化した現代社会において,時にその言葉上での性別は実情にそぐわない状況が生じている。だからこそ,言葉の性別そのものを問い直す必要があるのだという。
イリガライは集団としても女性のための運動に参加しているようだが,彼女の女性のための社会改革の提案は独特で面白い。ということで,少なからず勉強になる読書でした。

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