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自然の諸原理について

トマス・アクィナス著,長倉久子・松村良祐訳 2008. 『自然の諸原理について――兄弟シルヴェストゥルに』知泉書館,100p.,3000円.

トマス・アクィナスといえば,『神学大全』で,それは何巻にもわたって大きな書店には並んでいるが,とても買う気にもならなければ,もし手に入ったとしても読む気にはなれない。しかし,中世ヨーロッパの重要な思想家として押さえたいのがトマス・アクィナス。でも,私はお手軽な入門書の類は嫌い。やはりその思想家を知るには,その人が書いた文章を読まないと(といっても,所詮は日本語でしか読めないけど)。ということで,たまたま書店で見つけて購入したのが本書。ラテン語の原文が左ページに,その日本語訳が右ページにという印刷で,注と解説を除けば30ページにしかならない。しかも,表題がこのようなものであれば,地理学者としてのアクィナス入門としては申し分ない。
ということで,一気に読み終わってしまった。本作は1252~1254年の間に書かれたと考えられている。これよりちょっと後の時代にネオ・プラトン主義というのが登場し,ルネッサンスで大きな役割を果たすわけだが,古代ギリシャ思想としてのプラトンとアリストテレスのうち,中世の時代を生き抜いたのがアリストテレスであるとの単純な理解が私にはあったのだが,それが誤りだということが本書で分かった。アリストテレス哲学もヨーロッパには中世に逆輸入という形で再発見されたものだという。それはイスラム世界を経由して再びヨーロッパにもたらされたわけだが,その際にアクィナスという人物が大きな役割を果たしたという。
そのなかでも本書は,アリストテレスの『自然学』を解説するものだ。『自然学』は私も読んでいる。プラトンの『ティマイオス』よりは分かりやすいが,それでも理解度はそれほど高くない。しかし,本書はそのかなり分かりやすい解説書となっている。しかも,私はまだ読んでいないアリストテレスの『形而上学』における形相と質料の解説から,可能態と現実態へと議論が進み,自然における原因・原理へと結論付けられる。でも,ちょっとうがった見方をすると,こんなにわかりやすい解説で果たして正しいのかと思えてしまう。本書だけ読んで偉そうなことはいえないが,アリストテレス哲学をかなり矮小化しているのではないかと。
でも,また違った見方をすると,これだけ分かりやすくなっているのは,翻訳者の労によるものでもある。読者は訳者の一人である長倉氏が本書の完成を前に亡くなってしまったということを知る。巻末にはアクィナス研究文献の一覧がつけられているが,長倉氏はこの方面のアクィナス研究の第一人者だと分かる。機会があれば彼女の論文でも読んでみることにしよう。

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