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ストリートの思想

毛利嘉孝 2009. 『ストリートの思想――転換期としての1990年代』日本放送協会出版会,270p.,1070円.

毛利氏の著作は初めて読む。いくつか、単発の論文は読んだことあると思うが、上野俊哉氏との共著の新書も含め、今まで読んだことはなかった。実際に本人を見たことはあるかないか、記憶は定かでないが、いつしかのカルチュラル・タイフーンで見たことがあるような気もする。
毛利氏はカルチュラル・スタディーズを日本で牽引してきた一人ではあるが、なんとなく吉見俊哉氏や上野俊哉氏と違って読まず嫌いであった。吉見氏はかつて演劇青年であったにせよ、あくまでも現在は大学人としての理論派である。実のところは理論派といっても、難しい議論は得意ではなく、歴史的事実で根拠づける実証派と呼ぶべきか。現代の問題を扱うのは若干苦手だと勝手に解釈している。難解な議論はあまりしないが、かといって彼の文章は非常に真面目で本当の意味での大衆には難しいと思う。一方、上野氏は外見からしても実践派であり、しかしお硬い文章も書ける。お硬いのに題材は現代的で極めてポピュラー。この人もあまり難解な文章は書かないが、大衆に向けた文章も書ける人だと思う。どちらも、私にとってはある意味で憧れる存在である。
その一方で、彼らよりも若干若く、どちらかというと上野氏にシンパシーを持っているようだが、毛利氏は人間としてではなく、同業者としてとっつきにくい印象を持っていた。しかし、今回私が下北沢のことを研究しようと思うようになって、彼の本書の中にSAVE the下北沢という、下北沢の再開発計画に反対する団体に関する記述があることを知って、急遽読むことにした。NHKブックスの一冊だし、軽く書かれたものだろうとたかをくくっていたが、意外としっかりと書かれていて読み応えがある。それと同時に、彼の立ち位置が良く分かるものであった。まず彼は、大学を卒業して西武系の広告会社に入社したらしい。しかも、世間は西武バブルで盛り上がってはいるものの、会社自体はその過渡期で業務は縮小傾向。そんななか、彼は退職し、ロンドンに留学する。学部は経済学部だったらしいが、広告業界にいたこともあって、文化やメディアを研究できる大学院に進んだことで、それがカルチュラル・スタディーズとの出会いになったという。日本ではまだその動向をきちんと紹介していなかった1990年代初めのころのこと。また、彼は若い頃から内外の音楽に精通していたらしい。
そのこともあって、カルチュラル・スタディーズが扱いがちなカウンター・カルチャーやアンダーグラウンド・カルチャーにも強かったとのこと。かといって、正統派政治運動に参加するような若者ではなく、研究者になってからもかなりどっちつかずの立場を有していたようだ。まあ、そのことが私にはとらえどころがなく映っていたのかもしれない。まあ、ともかく本書ではそんな微妙な立場を正当化するというのが主たる目的になっていると思う。一方で、読者としての私はもちろん政治運動には参加しない傍観者だし、極めてポピュラーな文化に関する知識しかない。テレビも新聞も持たないので、同時代的な社会の動向にも疎い。大学人でもなければ理論派でもないし、自分の研究実践においてもアクチュアリティを有しない、ある意味では非常にオーソドックスな文化研究者だといえる。そんな私にとっては、本書は非常に魅力的なものであると同時に、私のような研究者の立場を全否定されているような気分にもさせられる。
本書は文化的実践によるある意味での政治活動家たちを「ストリートの思想家」と呼び、賞賛する。具体的な個人を取り上げながらも、彼らの活動の意義を評価する際には、大きな視点に立つ。これも私にとっては読まず嫌いのネグリとハート『〈帝国〉』を根拠にし、日本で起こっている様々な問題を全てこの大きな理論によって解釈しようとする立場は非常にすっきりと分かりやすくありながらも、本当にそれでよいのかという疑問を拭いきれない。1995年というターニングポイントがあるのは分かるが、社会は、あるいは世界は時代によって決定されるのだろうか。そして、この時代の文化研究者は彼のようにあらねばならない、ある意味ではそんな押しつけがましさもなくはない。彼が取り上げる「ストリートの思想家」はネグリとハートによる「マルチチュード」にあたるようだが、その言葉の意味するところは多様性である。しかし、一方で彼が理想とする研究者の姿(しかし決して彼は彼自身をストリートの思想家の仲間であると自認しているかどうかは不明)はあまり多様ではないように思われる。はたして研究者は何をするべきなのか。彼のようにこの時代を変革へと導いていく「ストリートの思想家」を支援し、それを理論的に正当化していくことなのか。
まあ、ともかくいろいろ考えさせられる一冊ではある。

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コメント

ミッコさんも本当は子供産んで、自慢ブログをやりたいんだろうに。バチが当たって望みは叶いませんのよ。おほほほ。
成瀬さんなんて、どの大学探してもいないんでしょう!
春木美智子が祖師谷の薬局にいなかったように。

投稿: あおみ | 2011年2月 5日 (土) 16時35分

他人様のブログでこんな脳なしな内容を書く暇があるなら、もっと勉強したらどうた。それとも実は精神的障害があるの?病院でも行ったら?

あなたこそこんなところでしかできない、一人でパソコンに向かって気持ち悪いオタクでしょう、きっとひとり身で死んでいくから、キンカさんの悪口を書くより、早めにお棺でも用意した方がいいじゃない。

投稿: | 2011年2月 7日 (月) 13時00分

あらー,面白いやり取りしてますねえ。
でも,せっかくだったら,子ども自慢をしているような日記に書き込んでくださいな。これはあくまでも読書日記ですから。

確かに,子ども自慢日記は不妊で悩んでいるような人にとっては不愉快かもしれませんね。
あおみさんのように,密かに恋焦がれていたアイドルに結婚されてしまったような人にとっても。

名無しさんの書き込みもありがたいですが,あおみさんを「オタク」呼ばわりするのは,オタクに失礼だと思いますよ。

投稿: ナルセ | 2011年2月 7日 (月) 19時42分

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