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親になった実感

わが家の息子は生後100日を迎えた。ということは,私たち夫婦も親になって100日ということになるが,未だに確たる実感がないというのが正直なところだろうか。といっても,息子がいる生活に慣れないというとそういうわけでもない。何かと手がかかる息子を中心に私たちの日常生活が一変したことは確かだ。逆にいうと,私はあまりにもすんなりとそういう生活に順応しているのかもしれない。もちろん,ここでも再三書いているように,子育てに何も問題がないわけではない。いろいろ大変なこともあるが,それもひっくるめて受け入れている自分がいる。
振り返れば,私は順応しやすい人間なのかもしれない。大学院時代は自分の机を与えられ,共用のパソコンも自分専用の本棚もあって,自分のペースで仕事をして,大学院を追い出されたらどうやって生きていけるのだろうか,と本気で悩んでいた。一番理想的な解決は大学に就職することだったが,それもかなわず,とりあえず自宅に本棚を買い足し,大学に置いていた本を全て自宅に引き取って,自分のパソコンを買い,それまでやっていた週3日のアルバイトを週5日に変えてもらった。そこから擬似サラリーマン時代がしばしあったのだが,それもそれなりにすぐ慣れる。毎日ネクタイをして出勤し,あの頃は富山だの沖縄だの,高知だの,仙台だのとよく出張をしていた。
しばらくすると,立て続けに2つの大学非常勤の話をいただき,今考えると恐ろしく忙しい時期があったようだ。多い時には週4コマくらいの講義があり,しかし平日の講義は夜か夕方にしてもらって,会社には週1回早退するだけで5日勤務は変わらずにいた。今よりも受講者は多く,毎日講義の準備をしたり,レポートがあれば採点に追われたり。私がまだライヴ通いをする前の話です。
数年非常勤をやっていると,講義内容は前年の使い回しをすることで随分楽になる。また,いつの間にか平日の講義の日には会社を休ませてもらうようになって,空いた時間でなぜかライヴ通いをするようになった。それも多い年は年間300回を越えていたから(それに加え,映画も150本くらい観ていた),その頃は恋人がいなかったということもあるが,それなりに忙しい日々だった。

あ,なんか忙しい自慢になってきましたが,要はここ15年くらいの間に生活は次々と変化しているのだが,うまく対応しているというか,まあそれが生きているということなんですな。しかし,そんな私でも自分が結婚するとか子どもを持つということは想像しえなかったことである。この歳になれば,結婚式に呼ばれることもほとんどなくなって,子どもの写真をこれ見よがしに送ってくる年賀状などを冷ややかに見ていたものだが,徐々にそういうものを素直に受け入れる年齢になるもんなんですね。ライヴ通いや研究者仲間,インターネットのつながりによって下の世代の人と知り合ったりすると,やはり結婚や出産というのが間近にあるものですが,数年前からはそういうことを素直に祝福できるようになってきていた。
そんなこともあってか,現在の妻と付き合い始めた頃には,私は結婚というものを現実的なものとして考えられないと相手にいっていたが,最終的には籍を入れてしまった。それは別に子どもが生まれた時に備えてというわけではなく,結婚というものに抵抗していた自分の考え方が自分自身にとって正当なものではなくなってきていた,ということだろうか。妻が子どもを欲しいということも聞いていたが,なぜか私には変な確信があって,自分の精子では子どもはできないのではないかと勝手に思い込んでいたのだ。恋人との付き合いの仲で,望まざる妊娠をしてしまった人というのがどれだけの割合でいるのかは知らないが,少なくとも私にはそういうものがなかった。
だから,妻が子どもが欲しいと継続的にいうにしたがって,じゃぁ本当にできるかどうか試してみようという気にもなった。そんなこんなで,避妊にそれほど真面目にならなくなった途端に妊娠が分かり,「あら,私の精子,ちゃんと役割果たすんだ」という変な驚きだった。実は,妻の方も事前に簡単に妊娠できない体質というのを聞いていて,きちんと子作りをするのであればそれなりの準備をして,といっていた。なので,子どもを作るかどうかというのは2人できちんと話し合った上でと思っていたのだが,意外にもその時はやってきたのです。そして,なんのためらいもなく,私はそれを受け入れる準備ができたようです。
まあ,そこからはそれなりに予定通りに予定日2日前に出産し,産まれたら産まれたで,標準どおりの月齢で成長している息子。もちろん,うまくいかないこともあるけど,それは仕事でも研究でも講義でも一緒。うまくいかないなりに毎日乗り切っているわけです。産まれた子どもは当然産まれた日から毎日一緒にいていなくなったりしないけど,イマイチ父親になったという実感がない。そもそも,父親になるってことはなんなのか。自分の精子が受精し,成長し産まれ出ることなのか。産まれ出た子どもを育てることなのか。その辺がイマイチ実感としてよく分かっていないというところ。

2月6日(日)

銀座シネパトス 『ブローン・アパート
そんな私がこの日選んだ作品は,「若い母親」とだけ称される主人公が自爆テロによって,夫と4歳になる息子をなくすという物語。『ブリジット・ジョーンズの日記』の監督シャロン・マグアイアの最新作。テロをテーマにした物語ということで,オサマ・ビン・ラディンに宛てた手紙という体裁をとって話題になった小説が原作らしい。その若き母親にミシェル・ウィリアムズが扮し,彼女と関わりを持つ新聞記者役にユアン・マクレガーが扮する。ちょうど,ミシェルは妻と同い年で,ユアンは私と同じ学年。前にも書いたかもしれないが,ユアン・マクレガーはその存在感がかなり好きな俳優。ミシェル・ウィリアムズは『ブロークバック・マウンテン』~すっかり大人の女を演じているけど,私の記憶のなかでは『ランド・オブ・プレンティ』でのボーイッシュな少女としての彼女だ。
ちなみに,原題は「Incendiary」といって,火をつけるものという原意から扇動者などの意味もあるらしい。本作はもちろん,前半の息子との楽しい思い出と,息子を失ってからの悲しみの日々,そして単なるゴシップ記者が彼女のためにテロの真相を探っていくという展開。それほど斬新な展開が待っているわけでもないが,そして上映時間が100分という手ごろなこともあって,ほどよくまとまっている。そして,ユアン・マクレガーの控えめな演技と,ミシェル・ウィリアムズの頑張り過ぎない演技が英国らしい良質な作品に仕上げられています。

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コメント

私も正直なところ,あまり実感はなかったです。
時々出産の時のことを思い出しても,思い出せないほど多い。
だけど日々成長していくわが子を愛しくてと思え,可愛いと思うのはやはり母性というものなのかな。
親になるではなく,子どもが親にさせてもらってると思うときもある。
子どもを教育する,今はまだ育てるだけど,これから子どもに教える時は,きっとお父さんの役割が大きいと思いますよ。
親になった実感がなくても,親になった自覚はあってほしいです。まぁあると思いますが。

投稿: 嫁 | 2011年2月14日 (月) 09時36分

お嫁さん

もちろん,親になった自覚はあるし,母性はなくてもわが子は可愛いです。
まあ,ともかくこれから苦しいことと楽しいことをいくつも家族で共有して重ねていって,親子になるんでしょうな。

投稿: ナルセ | 2011年2月14日 (月) 19時09分

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