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歓待について

ジャック・デリダ著,アンヌ・デュフールマンテル序論,廣瀬浩司訳 1999. 『歓待について――パリのゼミナールの記録』産業図書,178p.,2000円.

最近は諸事情で開催できていないが,昨年まではけっこうな頻度で続いていた地理学者仲間での論文会。これは『Progress in Human Geography』という特定の分野やテーマの研究動向を検討するような論文ばかりで編集されているという雑誌から論文を選んで,一人が発表者となり,でも基本的には他の参加者も目を通すという形での会。そのなかで取り上げられた,David Bellという人が2007年に書いた論文「The hospitable city」が「歓待hospitability」という概念を扱っていて,そのなかに本書もあったことを覚えていて,機会があれば読んでみたいと思っていた。もともと薄くて安い本ではあるが,ちょっとAmazonで検索したら中古で1100円で思わず注文。
最近,下北沢のミュージシャンとライヴ施設のことを調べていることもあって,Bellの議論とも近いのかなあと思い,本書を読むことにした。Bellが論じていたのは詳細は忘れてしまったが,まあ要するに人を惹き付けやすい都市とはどういうものかを探求したもの。エンタテインメントなどのことはイマイチ出てこなかったと思うが,レストランや飲み屋,バーなど。もちろん,グルメな人たちが一人でそういうサーヴィスを求めて行ってもいいのだが,やはりそこには仲間が集う場所という意味合いがある。そういう意味においては,単に魅力的な店があるというだけではなく,その界隈がいかがわしいとか危険とかというマイナスの要素もあるということだ。
ということで,そんなことを期待しながら,でもなぜデリダがそんなテーマを扱っているのかという疑問も抱きながらページをめくっていく。デュフールマンテルによる序論だけで42ページあるのだが,デリダの本論を読み始めてその期待が間違っていたことに気づく。翻訳の副題にもなっているように,本書は2回分のゼミナールの内容である。1回目が1996年1月10日に行われたもので,「異邦人の問い:異邦人から来た問い」と題され,2回目が1996年1月17日の「歓待の歩み=歓待はない」と題されたもの。解説にはデリダがこのテーマを論じるようになった背景として,歴史的に異邦人に寛容であったフランスが,近年の移民や外国人労働者の入国に対して厳しく制限をしているということがあるという。確かに,私が読んだ教科書でも,EUができ,その内部での人々の移動に制限をかけなくなった結果,EUの内外での制限を加盟国が同じように厳しくせざるをえないという状況にあるという。
そう,まず歓待というのは今日的で大きな政治的問題でもあるというのだ。しかし,これはあくまでも訳者がつけた解釈であって,本書だけを読む私にはそんなことはあまり読み取れない。唯一本文中にあったアルジェリアに関する記述はデリダにしてはかなり実際的だった。しかし,訳者解説にはアルジェリア出身のユダヤ人であるデリダ自身が市民権を奪われた過去があるということまで書かれている。歓待というのはそもそもは,無条件で異邦人を受け入れるということ。ところで,そもそも異邦人とは他者である。異邦人を異邦人として見做すこと。やはりこれは簡単な問いではない自己と他者の哲学的問題で,ある意味ではいかにもデリダが扱いそうな主題。そう,実際に本文を読んでみると,これはいかにもデリダらしい議論であり,全く違和感はない。ただ,珍しく電子メールやインターネットなどという現代のコミュニケーション技術に言及するところはらしくないといえば,らしくない。でも,それ以外ではプラトンも登場するし,ソポクレスの『コロノスのオイディプス』に関する議論はまさに歓待の中心にある。私もそろそろオイディプスに関しては真面目にいろいろと読まなくてはならないな。

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