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フェルメール「地理学者」

4月1日(金)

3月は地震の月ではあったが,私にとってはけっこう働いた月だった。普段,私は週4日勤務なのだが,大学が長期期間中は休みの予定の金曜日でもお願いされれば出勤する。2月からはけっこう私のするべき作業がたまっていて,何かない限りは出勤していたのだが,3月は皆勤。かなり3月に集中してやっていた業務が一段落したということで,久し振りに金曜日に休ませてもらう。そして,この日はなんといっても「映画の日」。

渋谷ヒューマントラストシネマ 『お家をさがそう
選んだのは『アメリカン・ビューティー』のサム・メンデス監督最新作。妊娠発覚をきっかけに新居探しの旅に出るという一風変わったロードムーヴィ。こういう素朴な作品好きなんですよね。妻も観たがっていたので,とりあえず私だけでも見逃さないように。
予想通りの素朴さと面白さ。主人公カップルは女性側の主義で結婚はしないが,お互い唯一の存在として愛し合っている。なので,妊娠も望んでいなかったわけではないが,女性がフリーのイラストレーター,男性が保険関係のオペレーター(よく分からんがオフィス勤務ではなくいつどきでもかかってくる顧客からの電話に応対するという業務),という不安定さから,女性は人生について思い悩む。
女性側の昔の職場の上司に始まって,知り合いのいる街を訪れて合衆国を北から南,東から西へ,カナダのモントリオールまで行きます。結局,このロードムーヴィはさまざまな土地のさまざまな風景や人々と出会うという一般的なものではなく,女性の上司,女性の妹,とここまではごく親しい人に会いに行ったのだが,それからは男性の幼馴染とか,久し振りに会う人や,数度しか会ったことのないような人も含めて,あまり親しくない人と,初めてその家族と会い,ゆっくりと食事をすることで,主人公たちと鑑賞者がさまざまな家族のあり方を考えるという映画。どこの夫婦にも問題があって,それらに立ち向かって人々は生きています。
そんなさまざまな家族を演じるのもけっこう顔に見覚えのある俳優たちです。パッと名前が思い出せるのはマギー・ギレンホールくらいですが,彼女が演じる大学教授という役どころもなかなか癖があって面白い。登場する家族だけではなく,移動中の空港や宿泊しているホテルなどでも面白い人たちとの出会いがあります。面白いといっても過度に演出されたようなものではなく,ありそうなところがよい。主人公を演じる2人の俳優もとても魅力的でした。ただ,一つだけどうかなあと思ったのは,この2人がお互いへの愛を非常に強く信じて疑っていないこと。もうちょっと主人公たちに何かあっても面白かったかな。

bunkamuraザ・ミュージアム フェルメール《地理学者》とオランダ・フランドル絵画展
渋谷に行ったついでに久し振りに美術鑑賞。私たち地理学者にとって,17世紀の画家,フェルメールが描いた「地理学者」という作品は有名です。17世紀オランダ・フランドル絵画に関する研究は多いが,スヴェトラーナ・アルパースの『描写の芸術――17世紀のオランダ絵画』(邦訳ありな書房,1995年)は「オランダ絵画における地図作成的衝動」という1章でこの辺の事情を詳しく論じている。といっても,この章の導入はフェルメールではあるが,登場するのは「地理学者」ではなく「絵画芸術の寓意」である。それはこの本の日本語訳表紙にもなっているのだが,フェルメールが得意とする室内画に女性を配した肖像画でもある。タイトルとなっているのはその画面に画家自身が描きこまれているということ。そして,その背後に壁掛け地図が大きく描かれているのだ。1世紀前,16世紀のオランダ,精確には現在のベルギーも含むネーデルラントでは地図製作が盛んだった。有名なメルカトルもいたし,オルテリウスは世界で初めての世界地図帳を作った。都市景観図ってのが流行ったのもこの時代。もちろん,風景画も。そもそも「風景」という語は風景画を意味する言葉としてこのころこの辺りで生まれたのだ。
それにしても,いくら東京には初めてやってくるからといって,この「地理学者」が目玉になるなんてどうなの?って思ったけど,観てみてちょっと納得。他に目玉になりそうな作品はなかった。この頃の代表的なジャンルとして,まず肖像画があり,静物画があり,風景画がある。総称して北欧ルネサンス芸術の特徴としての「細密画」のもろもろといってところか。この展覧会で学んだことは,こうしたジャンルがまさしく流行として,同じような構図,筆遣いで大量生産されたということが分かったこと。そして,静物画でも魚だの海老だの,兎だのというのは貴族たちの趣味としてのハンティングの流行と大きな関係があることと,風景画でも海上画が多いのは,海上覇権国としてのオランダと関係があること。と,教科書的な意味では分かりやすい展示でしたが,個々の作品をどう観るのかってのはやはり難しく,美術史研究はけっこう読んでいるつもりだが,そこで得た詳細な知識はなかなか出てこないってことだ。

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