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川本三郎『マイ・バック・ページ』

川本三郎 2010. 『マイ・バック・ページ――ある60年代の物語』平凡社,221p.,1200円.

先日,川本氏の『雑踏の社会学』を紹介する時にも書いたが,結局本書も読むことになった。ちょうど,大学の講義でウォーラーステインの『ポスト・アメリカ』を教科書で使っていて,5章のタイトルが「1968年」。その章の話をする前の週に,この映画を学生に紹介したこともあって,とりあえず映画を観ることにした。ちょうどその頃とある日本文学の研究会のお知らせをもらって,そのネタになる作品を考えていたところだった。ということで,映画を観る前に原作を読むことにした。原作が自伝的なものであるとは知っていたが,全くのノン・フィクションとは知らなかったのだ。
本書は創刊当初の『SWITCH』に1986~1987年にかけて連載され,1988年に河出書房新社から単行本が出て,その後文庫化もされたらしい。それが,映画化が決まって平凡社から新装版が刊行されたという次第。新装版のあとがきによれば,なんでも映画のプロデューサーが古書店で河出書房新社版の単行本を入手して映画化の話が進んだらしい。新装版が出た2010年には川本氏は66歳,プロデューサーは40歳台,そして脚本家と監督が30歳台ということで,1970年前後を生きてきた男の記録が,その時代を知らない世代の男たちによって映像化されるということになる。まあ,同じようなことは音楽界でも20年位前にあったことだ。1970年代初頭に活動していた「はっぴいえんど」というグループにあこがれた1970年代生まれのミュージシャンたちが新しい方向性を切り開く。本作でも,エンディングテーマを奥田民夫と真心ブラザーズが,ボブ・ディランの本作のタイトルと同名曲を歌っている。劇中音楽を手がけるのはクラムボンのmitoと,『婚前特急』でも音楽を担当していたきだしゅんすけ。かれらも1970年代生まれだと思う。ちなみに,演奏ではチェロ奏者の徳澤青弦と橋本 歩が参加していた。
さて,映画の話は映画の時に書くこととして,原作に話を移そう。雑誌への連載ということで,本書は12章からなっている。月刊誌だとして1年間分だ。

『サン・ソレイユ』を見た日
69年夏
幸福に恵まれた女の子の死
死者たち
センス・オブ・ギルティ
取材拒否
町はときどき美しい
ベトナムから遠く離れて
現代歌情
逮捕までⅠ
逮捕までⅡ
逮捕そして解雇

映画では最後の3章を中心に,他の章のエピソードが挿入された形で進行する。その辺のことは映画の予告編でもやっているが,川本氏はある運動家が起こした殺人事件に関与し,逮捕され,「証憑湮滅」の罪で有罪となる。逮捕されたのが1972年1月。彼は勤務3年で朝日新聞社をクビになる。これまで,川本三郎を映画評論家という立場を借りて古き良き東京の姿をノスタルジックに描く評論家と思っていたので,本書は私にとっての川本三郎の印象を大きく変えることになった。
彼はジャーナリストを目指したが,その道は閉ざされ,逮捕された新聞系雑誌記者としてのレッテルを貼られた上で,趣味を実益へと転化させた職業を手にしたということだ。映画は実際の時間の経過にしたがって進行するが,原作は同じ時代の話をさまざまなテーマに沿って書かれているので,けっこう繰り返しが多い。しかし,やはり最後にかけて活動家との関係と彼が起こした事件,そしてその関与による逮捕という展開は非常に生々しく力強い。映画の出来がどうだったかは別にして,この原作を映画化したいというプロデューサーの気持ちはよく分かる。

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