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『感情教育』歴史・パリ・恋愛

小倉孝誠 2005. 『『感情教育』歴史・パリ・恋愛』みすず書房,165p.,1300円.

みすず書房の「理想の教室」シリーズで,私が読むのは加藤幹郎氏の『裏窓』論に続いて2冊目。小さめで薄くて読みやすい。実際に講演があったのかどうかは分からないが,ですます調で,3回に分かれている。読書案内はついているけど,細かい引用文献などはなく,やはり一般の読者向けに平易に書かれているシリーズだといえる。しかし,もちろん著者は一流の研究者ですから,平易といっても中身は濃い。なかなか魅力的なシリーズです。
さて,本書の中心にあるのはフランスの作家,フロベール(1821-80)が1869年に発表した恋愛小説『感情教育』です。フロベールといえば1857年の『ボヴァリー夫人』が有名ですが,私は『感情教育』も読みました。岩波文庫で上下巻。なかなか読み応えがあった記憶と,読みながらパリの暴動のシーンが言葉ではなく映像で思い浮かびます。『ボヴァリー夫人』が田舎をも舞台に含めた女性の視点からの作品であるのに対し,『感情教育』は都市を舞台にした男性の視点からの作品です。さて,本書はタイトルどおり,3回の講義を以下のようなタイトルをつけて議論が進行します。

第1回 歴史
第2回 パリ
第3回 恋愛

といっても,基本的には19世紀の後半のフランスの状況を作品を通して理解しようというのが本書の狙い。まず,第1回では当時のヨーロッパ小説についての解説と,『感情教育』の歴史的背景としての1848年の2月革命について説明されています。特に,本書ではこの作品を歴史小説として位置づけ,それがいかに日本における歴史小説の一般的理解と異なっているか,ということを出発点にしています。日本で人気のある歴史小説には必ず歴史的人物が中心となって,歴史的事件を物語調に描くというものですが,『感情教育』は作者の綿密な調査に基づいて,歴史的状況が小説の舞台として復元されながらも,固有名詞はほとんど登場せずに,主人公を含む登場人物たちはフィクショナルな名前は付けられているものの基本的に匿名の一般市民です。
続いての第2回では空間的舞台としてのパリの当時の状況について説明されます。特に,この時期セーヌ県知事のオスマンによって,大規模な都市計画が実施され様変わりしたパリのことが解説されます。そして最後の第3回では,当時の社会関係が説明されるなかで,若き学生である主人公のフレデリックと,彼があこがれるブルジョア階級のアルヌー夫人が一般的にはどういう関係にあるのかが理解されます。当時の恋愛観と結婚観,性的な倫理などなど。もちろん,アルヌー夫人だけでなく,フレデリックが関係を持った,属性が違う他の女性3人についても解説されます。
本書にはいくつか当時描かれた風俗画なども挿入されていて,とても理解しやすい内容になっています。これだったら,先に『感情教育』を読んでいなくても理解しやすいし,逆に本書を読んでから『感情教育』を読むというのも楽しみが増えそうです。

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