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月曜日の朝

山口 瞳(文),田沼武能(写真) 1976. 『月曜日の朝』新潮社,237p.,3800円.

私はいわずと知れた(?)田沼武能研究者だ。集中的に彼の作品に取り組んだのは私が修士課程2年の頃だから,1995年か。そのころはちょうど神保町でアルバイトをしていたので,古書店を廻って田沼さんの写真集を集めた。もちろん,古書で集めきれるはずもないので,手に入らないものは図書館を使ったのだが,本書は国会図書館で思わず読みふけってしまうほど魅力的だったにもかかわらず,その後古書店でも全くお目にかかったことがなかった,私のなかでは幻の作品。山口 瞳氏は直木賞も取った有名な作家なので,古書店でも彼の作品はよく見かけるが,本書は写真も掲載しているという特殊なものなので発行部数も少なかったのだろうか。それが,最近思い立って,Amazonで検索してみると,なんとけっこう安価で古書が出回っているではないか!嬉しいとのちょっとショックなのと,でもとりあえず購入した。
いやはや,やっぱり面白い。51のエッセイが収録されたものだが,もともとは1973年の『週刊朝日』に連載されていたものだ。この頃の『週刊朝日』といえば,先日とりあげた『マイ・バック・ページ』の著者,川本三郎が退職された後だろうか。まあ,それはともかく,編集者の提案にしたがって,国立に住む山口氏が,週に2回東京駅前の会社まで通っていたという,通勤日記的なエッセイになっている。泉 麻人の『地下鉄の友』みたいな感じで,車内で目にする耳にする他人のこと,また駅や電車でばったり会ってしまう知人のこと。ともかく,目の付け所がやっぱり違ってなんてことない文章なのだが,非常に興味深い。さすが『江分利満氏の優雅な生活』の著者。江分利満=エヴリマンであり,誰にでもあてはまるような,それでいてどこにも存在しない抽象的な「普通の人」を主人公にするという素晴らしい発想。山口氏の作品で,これだけは読んだことがあるのだ。ちなみに,山口氏は作家になる前に会社勤めをけっこうしていて,有名なのはサントリーでのコピーライター。近年再びブームの「トリス・ウィスキー」の有名なコピー「トリスを飲んで,ハワイに行こう」は彼のものらしい。そもそも,サントリーは広告活動に力を入れていて,日本における洋酒文化の普及に努めたといえる。そんな雑誌『洋酒天国』ってのが過去にあり,その写真を担当したのが田沼武能というつながりだという。もちろん,田沼氏の『文士』にも若かりし頃の山口氏の写真が載っているし,田沼氏の写真集の幾つかに山口氏が序文をつけている。ちょうど,私がそんな修士論文に取り組んでいた時期,1995年8月に山口氏は亡くなり,田沼氏は彼の追悼写真集を出版した。その写真展は観に行った記憶がある。
ともかく,文章も写真も,装丁も素晴らしい作品です。

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